上野 いま投稿欄を読んでて思い出しましたけど、当初は「日本のアーティストの記事をなくせ」みたいな意見が結構ありましたよね。
伊藤 あったねえ。いまとなっては信じられない話だけど。日本語ラップ嫌いって言う風潮が当時はすごい根強くてさ。それは仕方がないんだよ。「CROSSBEAT」っていう洋楽誌の別冊でスタートしてるから。そこで日本語ラップをバンバン扱っていくと「なんだよ」って思う人がいるのは致し方ない。そういう流れがあるなかで、当時連載してた士郎さんが、雷のイヴェント〈亜熱帯雨林〉を紹介したりとか。
ブロンクス それも前後編にわけてね。
上野 あとジブさん(ZEEBRA)が、3回しか続かなかった伝説の連載〈FOR THE B-BOY ONLY〉で日本語ラップ嫌いに向けたアツい文章を書いたりしてましたよね。
伊藤 アーティストがすごく発言してた。最近、士郎さんもよく言ってるんだけどさ、世の日本語ラップに対する偏見にどう返答していくかって言うアクションが、最近はないじゃん。諦めてるのか、オレらはオレらのシーンがあるからいいやって納得しちゃってんのか分からないけど。
上野 はいはい。
伊藤 でも、こないだタマフル(TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」)で日本語ラップ特集をやったのも、むしろいまのほうが昔より偏見が大きいんじゃねぇかっていう。
上野 そうっすね(強く同意)。
伊藤 そういう問題意識から、それに対する回答として特集をやったみたいなんだけど。士郎さん、いままたそういう意識があるらしくて。
ブロンクス 分かる気もするな。そう考えると90年代のヒップホップって活動的だったし根がポジティヴだよね。
伊藤 うん。ブレイクスルーしようっていうハングリーさがいまより全然あったから。
ブロンクス いまのUSのシーンとか見てると、ビートが進化してライムが進化していくなかで、振り落とされちゃった部分って絶対あるからね。結局、ヒップホップしか聴かない視野が狭くてつまらない不良少年たちと、リングトーン(着メロ)・ヒットを量産してるだけで、本来一番重要だったはずのストリート・ナレッジが欠けてる。「いまのヒップホップって平均したら基本がネガティヴじゃん」っていうのは、いつもすごい思うんだよね。
上野 そうっすね……。
ブロンクス タフだけど、ユニティー感はあんまないっていうか。そんなこと言い出すとオッサンみたいだけど。
伊藤 でもそうだよね。
上野 そこが復活すれば、他の人がヒップホップに食いついてくるいいチャンスになりますよねえ。
ブロンクス そうだよね。ところで、何で「FRONT」から「BLAST」に変わったんだっけ?
伊藤 要するに雑誌名の登録の問題で、どこかの公共団体の雑誌で〈~フロント〉って雑誌があって類似登録って見なされたらしいよ。
ブロンクス そうだそうだ。この辺で上ちょの「FRONT」~「BLAST」の思い出ベスト3でも訊こうか。
上野 なんだろう……。まず、最初に俺らの名前が載ったとき。俺らが出たイヴェントをレポートしてくれて。〈サイプレス上野とロベルト吉野が良かった〉って。「ヤべェじゃん」って周りに褒められたんですけど、写真はDEEP SAWER*2っていう(笑)。
*2 ヒップホップ・グループ。サイプレス上野とロベルト吉野とも親交が深い。
一同 (笑)。
ブロンクス イイね。じゃあそれが第3位ってことで(笑)。
上野 第2位は、自分らのデモを紹介してもらった連載〈Homebrewer〉ですか。自分が載ってるのばっかだな。古川(耕)さんにイヴェント〈DELUXE COMBO〉でデモを渡して。けど当時は磯部(涼)さん&古川さんに対して不信感があって。
伊藤 え、なんで?
上野 ヒネくれてたんすよ、当時。渡しときながら「どうせ載っけてくんねーんだろうな」って勝手な被害妄想を持ってて。「イイっすよ、別に。載せなくても。つうか聴かなくてもイイすよ」「ああいう感じがお好きなんすよね」みたいな。
伊藤 どういう感じだよ(笑)。
上野 で、パッとページ開いたら載ってて。「載ったああ!」って。超ウレシー!みたいな。先にSTERUSSが載ってたから、ちょっと出遅れた感があったんで。
ブロンクス で、〈Homebrewer〉を経て1位は……。
上野 やっぱり最終号の表紙を飾ったことっすね。あと、『ドリーム』のレコーディング・レポートもうれしかったすけどね。
伊藤 上野ががっつりフィーチャーされたのってさ、『ドリーム』が出た頃じゃん。だから、その頃までは、まだ読者目線だったってことでしょ。最後の最後でアーティスト目線になって。
ブロンクス 美しいね。ここで突然登場したLOCKSTOCKの社長ことHOTCHのベストは?
上野 突然登場。怒涛の参上。
HOTCH 日本語ラップとはズレるんですけど、レコ屋で働いてたんで、KEN-BOさんとか色んな人たちのディスクガイドが出るじゃないですか。あの後のレコ屋の大変さがすげぇ思い出としてはありますね。
伊藤 〈ミドルスクール特集〉って言うのを98年にやってさ。アレがやっぱりレコ屋的にもデカかったらしくて。
HOTCH 出たものが全部高くなるんですよ。
伊藤 ミドル特集のコピーがNYのレコード屋に出回って。それがまさに功罪の罪。
ブロンクス オレはCDで掘ってたけど覚えてるよ。ホントあの記事の直後に〈ミドル〉ってコーナーが出来て値段が上がった。
伊藤 しょうがないけどね。
上野 浦田威君の連載とか……〈ヴァイナル刑事〉。
HOTCH あった! あと俺は結構、沼田充司さんの連載〈STACK vs NUMATA〉が好きだった。あのスタンスが良かったですね。
ブロンクス あの連載は熱かったね。フェイズ2*3のコラムとか、あっちのライターのインタヴューの人選も完璧だった。俺はフェイズ2の記事を勝手にコピーして自分のやってたイヴェントで配ってたからね。でも対談は、ポリティカルでありつつ基本は与太話っていう(笑)。
*3 ヒップホップ創成期から活躍するグラフィティー・アーティスト
伊藤 〈STACK vs NUMATA〉は「FRONT」初期から「BLAST」後期まで続いた唯一の連載だと思う。連載ってデカかったと思うんだよね。ジブさんの訳詞の連載〈WORD IS BOND〉とか。洋楽の国内盤って対訳が入ってるけど、実際はみんなそんなに読んでないんだよ。なんでかっていうと対訳を読んだところで生きた訳じゃないから分かんない。
上野 あぁ。
伊藤 だから普通にラキムのリリックの対訳読んでも、どこがすごいか分からないと思うんだ。ジブさんの対訳は、どこがスゴいかっていうところまで分かるようになってて。ラッパー視点の生きた訳なんだよね。「FRONT」ではジブさんは文字通りのライターだったからね。