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第10回 ─ 渋谷=ヒップホップの街に! ~MICROPHONE PAGER『DON'T TURN OFF YOUR LIGHT』

第10回 ─ 渋谷=ヒップホップの街に! ~MICROPHONE PAGER『DON'T TURN OFF YOUR LIGHT』(3)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2008/09/04   14:00
更新
2009/10/06   15:15
テキスト
文/東京ブロンクス


今月のスナップ:MUROさんのお店〈Still Diggin'〉の跡地にて、ケータイをペイジャーっぽく使ってみました

ブロンクス MUROさんたちの周辺には、渋谷を象徴するようなキャラの人たちがたくさんいたよね。とっつきにくくて音楽マニアでお洒落、コワモテ。

上野 「お前もヒップホップやってるんならこれくらい知ってるんでしょ?」みたいなノリで。で、「知りません」って言うと怒られる、みたいな。

ブロンクス でも、そのおかげで俺ら世代は勉強できたよね。どんな外タレに会っても「お前ら、いまのアメリカのキッズよりイケてるよ」って言われる。

上野 日本人の方がチェックしてるっていうことの影響は確かにでかいなあ。

ブロンクス だってこの人たち、自分で〈NY馬鹿〉って言ってたじゃん。その開き直りはすごいし、サウスは知ってても90年代のNYヒップホップを知らずに育ってるキッズがどんどん増えてくなかで、俺らはそこを忘れてないっていうのは、絶対PAGERのお陰でしょ。呪縛のようであり、実はギフトだよね(笑)。

上野 色々見ていくと、やっぱNYのかっこよさがわかってないと駄目だよなって思いますよ。

ブロンクス あと当時俺がやってたラップグループのDJの奴がMICROPHONE PAGERの影響を受けて〈ペイジャー〉*1を腰に付けてた。当時の〈ポケベル〉みたいに変に可愛くないスケルトンの〈ペイジャー〉。いま、NOKIAのケータイを使うようなノリで。
*1 ポケベルの、海外での呼称。ここでは海外仕様のポケベルの意味で使っている。

上野 ありましたねえ~! またあれが結構高いんですよね。もういまの子はポケベルも知らないだろうし、全然伝わらない話っぽいけど(笑)。

ブロンクス 100号記念かなんかの「THE SOURCE」誌に載ってたんだけど、当時はNYでもクラックが大流行していて、同時期にヒップホップ・カルチャーのなかで出回ったのが、貴金属とペイジャーだったんだよね。今ワルいことをするやつは飛ばし(架空名義) のケータイを使うけど、当時はペイジャーを使ってたってことだと思うんだけど。

上野 〈ポケベル〉にはそういうイメージはなかったすからねえ。女子高生の必携グッズみたいな感じだったし(笑)。

ブロンクス 〈マイクロフォン・ポケベルズ〉じゃ裕木奈江がチラついて駄目でしょ(笑)。あと、草ネタを俺が最初に耳にしたのもPAGERだったね。

上野 〈真っ赤な目~〉とか。確かにユウさんより前に言ってましたよね。

ブロンクス 宇田川町の人たちは、そういうNYのアイテムを頭のてっぺんからつま先まで揃えてた。

上野 〈なりきり〉でしたよね。

ブロンクス うん、〈なりきり〉なんだけど、やりきってたから格好良かったんだよね。いまは色んな価値観があるけど、この人たちは自分の価値観を迷いなく信じて広めようとしてたから。

上野 その影響を受けてたから、この頃って、日本のB-BOYのなかでのNY人気がすごかったですよね。だから、ジェルー(ザ・ダマジャ)とかグループ・ホームとか、実は半分以上が日本で売れてた、みたいな話を聞きますもんね。

ブロンクス 実際は当時のNYのアンダーグラウンドなシーンって、今のオレらのシーンよりちょっとデカイくらいだったと思うしね。ナズの『Illmatic』ですら当時はゴールド・ディスク(米国では50万枚)どまりだったんだから、マニアックなやつらなんてそれこそ何千枚のレベルで、10万枚売れたら大成功だったんじゃないかな。でも、スヌープはすでに600万枚とか売り上げてるわけで。

上野 MUROさんとも仲がいいロード・フィネスなんて、日本人が一番理解してるんじゃないかって感じですもんね。

ブロンクス でも、そうやってNY一辺倒になっちゃったから、アメリカ全体のヒップホップの動きを全然見れてなかったところはあるよね。それは功罪の〈罪〉の部分と言うか。

上野 確かにウェッサイなんかはその頃は全然追えてなかったですもんね。

ブロンクス 俺はそれ以前にウェッサイとかマイアミ・ベースとか聴いてたからさ、「これ聴いてちゃ駄目なのかな?」って思ったもん。CD棚の下の方に移しちゃって(笑)。

上野 マイアミ・ベースは禁句っぽかったかもしれない(笑)。『Bass Patrol』とかベースのコンピが出てましたけど、そういうのを聴いてたやつを馬鹿にしてた気がするもんなあ。

ブロンクス そういう偏り方のツケが回ってきたと思ったのが、ドクター・ドレーの『2001』が出たときだよね。リアルタイムで評価できなくて、ウェッサイな感覚に関する日本の遅れが明るみに出たというか。でも「BMR」誌とかのメディアは、その後反省してウェッサイものも載せるようになったけど、MUROさんたちはいまも変わってないじゃない。

上野 そこが逆に格好良かったんですよね。

ブロンクス いまのキッズもある程度までは物真似でもいいと思うんだよ。それはどのジャンルにも言えることでさ。いまのウェッサイとかチカーノの人たちだってそうだし。昔で言うとキャロルとか鈴木雅之みたいにコスプレ的な価値観でもやり切ってる人たちっていうのはどの時代にもいるし、やりきっちゃうと本場のシーンとも繋がっていくからね。俺はお金がなかったからその流れには全く乗れなかったけど。

上野 PAGERはとにかくかっこよかったですからね。

ブロンクス そうだよね。まあでも、どこかで完全になじめないところはあったけど。PAGERは凄くクールだったけど、俺が暑苦しい高校生だったからやっぱホットなのも好きだったし。

上野 ほんと、お洒落な大人のイメージでしたからね。これ以前はワイワイとマイク・リレーをしてたような感じでしたけど、このアルバムに関してはホットなものはひとつもないですからね。ひたすらディープだし。

ブロンクス で、MUROくんとTWIGYくんはその後にそれぞれ全然別の方向へ行ったけど両方追っかけるのはそろそろ大変だなあ……って思ったところで、今回の再結成。

上野 TWIGYさんのストレートなラップが久々に聴けるんじゃないすかねえ。

ブロンクス そうだね。PAGERは昔と同じことをやって満足する人たちじゃないし、21世紀版のやり方で来ると思うんだよね。

上野 むしろ、これからが見ものですよね。二人ともサボってた人たちじゃなかったから、磨き続けてきたものをどう合わせてくるのかっていう。

ブロンクス 最近のシーンは新世代が頑張ってたから、そこでどんなモノを提示して来るのか、本当に楽しみだよね。

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