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第9回 ─ 色んな意味でメジャー級! ~イルマリアッチ『THA MASTA BLUSTA』

第9回 ─ 色んな意味でメジャー級! ~イルマリアッチ『THA MASTA BLUSTA』(2)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2008/08/07   23:00
テキスト
文/東京ブロンクス


今月のスナップ:完全夏スタイルの上野。サンダルは居酒屋のトイレのものじゃありませんよ!

ブロンクス 当時は相当複雑な気持ちだったけど、TOKONA-Xは東京に対する敵意がすごかったじゃん? あれって実は〈さんピン〉がきっかけなんじゃないかなあと思ってて。ライヴが始まったとき、さっきまで総立ちだった周りの奴らがどんどん座っていったのを覚えてるんだよね。俺は音韻王者も興味があったし、個人的には盛り上がってたんだけど、あそこって結局〈さんピン〉のビデオにも収録されてないし。17~18歳くらいでああいうのを体験したら、東京が嫌いになってもおかしくないよね。

上野 確かに冷たい反応だったかもしれない。あの時点では音韻王者のアナログくらいしかリリースもなかったし。このアルバムが出る頃には東京のシーンとか、あと上の世代とかに噛み付いてましたよね。

ブロンクス 憶測の域を出ないことが多いから、細かいことは書けないけど、この頃は東京のアーティストがツアーから名古屋を外したりとか、色んなことがあった時期なんだよね。

上野 そうですねえ。名古屋幻想がどんどん膨らんでた時期だった。「名古屋に行くと危ない」っていう。

ブロンクス そういう意味でUSのヒップホップが持ってるファンタジーっていうか、危険な匂いを初めて感じさせたのが、名古屋のヒップホップだったよね。

上野 噂が膨れ上がってたから、初めて名古屋に行くとき怖かったですもん。実際、TOKONA-Xだけは話しかけられなかった。俺らのやってるフロアの上でTOKONA-Xがやってたんですよ。それで「やべえやべえ!」って騒いでたら、一緒に行ってた大和民族が最前列で騒ぎ過ぎてTOKONA-Xに水をかけられて(笑)。超おっかない、今日は話しかけるのやめよう……って(笑)。

ブロンクス 俺も〈B-BOY PARK〉にM.O.S.A.D.が出たとき挨拶に行ったんだけど、握手したら、その手のあまりのデカさと緊張で、何を話そうとしてたのか忘れちゃった(笑)。

上野 あの人ってものすごくデカいじゃないですか。威圧感を感じちゃって。色んな意味でメジャー級なんですよね。

ブロンクス 思うんだけどさ、名古屋にはヒップホップ以前にハードコアやレゲエのシーンもあって、さらに、その前には原爆オナニーズとかSAが出てきたパンクスのシーンがあった。裏を紐解くと、とっぽくて真剣に音楽やってる人達の歴史が連綿とつながってきてるんだよね。東京みたいにジャンルごとに歴史がバラけてない。名古屋の名物イヴェント〈MURDER THEY FALL〉なんかが象徴的だけど、ハードコアとヒップホップが当たり前のように一緒にやってる。そういう人たちからしてみたら、「日本語ラップで最近流行ってる東京の奴らが来たからってペコペコしねえぞ」っていうのは、きっと当たり前だったんだろうね。とにかく文化的土壌が厚い。それでいて、表現が生々しいっていうか、気取り過ぎないんだよね。〈名古屋巻き〉みたいに、派手め、エグめの角度で攻めて行く感じ(笑)。

上野 その対極にSEAMOさんみたいな人たちもいますしね。でもSEAMOさんとTOKONA-Xも、普通に仲が良かったらしいし。

ブロンクス 確かnobodyknows+と"E"qualが一緒にやってる曲なんかもあるしね。俺は名古屋のポップな方面は全然聴いてないけど、身内の絆はめちゃくちゃ強いんだろうね。

上野 それだけに怖いところもあった。

ブロンクス でも、それが良かったんだよね。他の地域と絶対的に違うという。東京が敵対視されてるってこともあったからかもしれないけど、名古屋はドキドキ感があった。M.O.S.A.D.が東京に来るときも、変な緊張感があったよね。TOKONA-Xのライヴって何回くらい観た?

上野 全然ないですね。〈さんピン〉と、さっき話した〈JACK THE RAPPER〉の2回だけかなあ。雷のイヴェントのときに外にいて、話しかけようか迷ったんだけどできなかった。

ブロンクス M.O.S.A.D.やソロ・アルバム発売の時とか、東京にも何回か来てたけど、こっちに来たときはSDPのみんなでよく観に行ったよ。ドラッグについて踏み込んで歌ったのもTOKONA-Xが最初だと思うし、実際俺らはそれに思い切り影響されちゃってたから。

上野 悪い影響を受けちゃって(笑)。

ブロンクス 『THA MASTA BLUSTA』は最初から名盤だったわけじゃなくて、「これって実はすげえかっこいいんじゃない?」って、だんだん人気を集めていったと思うんだよね。いまだによく聴く大好きなアルバムだけど、俺も最初『ナゴヤクイーンズ』が出た時は気になってたから買ってみた、くらいの感覚だったし。

上野 でもブロンクス君は、ほんとTOKONA-X好きですよね。日本一のファンでしょ(笑)。

ブロンクス うん。M.O.S.A.Dが出る前でコンピや客演でしかリリースがない年の「BLAST」の年間アワードでも、俺はひたすらTOKONA-Xを1位に挙げてたからね(笑)。俺はずっと「TOKONAと般若が絶対に一番ヤバい」って思ってた。本当にカッコよかったから。

上野 俺は、ほかの学校の文化祭で“Younggunnz”をかけながらラップを被せてたら、すげえ盛り上がってモテた思い出があるなあ。自分の曲でもなんでもないのに(笑)。

ブロンクス あの曲は渋めのトラックだけど全部のヴァースに勢いがあってマジでカッコいい。あとイルマリアッチは映画からのフィードバックがたくさんあったんだよね。グループ名自体、「エル・マリアッチ」から取ってるし、『THA MASTA BLUSTA』ってタイトルも多分「マッドマックス3~サンダードーム~」に出てくる敵キャラから持ってきてる。一般に人気のある1~2作目じゃなくて、3作目を持ってきたところが俺的にうけるね。「サンダードーム」が好きなやつなんて相当なボンクラか、ティナ・ターナーのファンしかいないよ(笑)。

上野 刀頭さんの映画オタクっぷりが出てましたよね。和モノのネタが多かったし。

ブロンクス うん、刀頭さんのネタの鳴りって独特だよね。壮大というか。だから、それを本当に乗りこなせるのがTOKONA-Xしかいなかったんじゃないかな。