マーヴィン、カーティス、ダニーなど、ファースト・ネームだけで足りる偉人たちと同等に敬愛されていることは間違いないものの、いまも愛のソウルを歌いながら存在感を示し続けるアル・グリーンは、安易なレジェンド扱いによる思考停止とは無縁の、心に響く音楽を生み出し続ける〈現役〉のシンガーである。
ゴスペルに転向していた彼がブルー・ノートと契約して2003年に世俗音楽への復帰を果たした際、70年代の肌触りが薫るサウンドを完成させた立役者は、全盛期のアルをスターダムに押し上げたサザン・ソウル界の名伯楽=ウィリー・ミッチェルだった。その2年後にも同布陣にてアルバムが制作されたが、今回登場したニュー・アルバム『Lay It Down』ではルーツのクエストラヴとジェイムズ・ポイザーをはじめとするネオ・フィリー周辺の面々がアルのもとに集結している。ただ、過去に栄華を極めたアーティストがその〈現役感〉を強調するためにイマドキの連中に担いでもらう、もしくはプロパーのファンのみに向けて得意のスタイルにしがみつく……なんていうよくある失敗例と、このアル・グリーンが〈ハイ・サウンド〉を現代に打ち出すこととはまったく別次元の話だ。エイミー・ワインハウスのバックも務めたダップ・キングスら新進のリズム隊や、フィリーが誇る弦の魔術師=ラリー・ゴールドらヴェテラン勢とのヒューマンなジャム・セッションを重ねつつ、思いつくままに楽曲を紡いでいったそうで、昔ながらのアナログな方法でのレコーディングがウィリー・ミッチェルとの前2作よりも濃密に黄金時代の空気を蘇らせたことは、「当時の人たちに評価されなきゃ意味がないからね」と語るクエストラヴらのリスペクトと学究心が奏功したのだろう。アルのソフトな歌唱が生む甘く湿った艶かしさは、ディアンジェロやラサーン・パターソンらが憧憬を寄せたことでも知られるが、今回の『Lay It Down』にもジョン・レジェンドやコリーヌ・ベイリー・レイ、アンソニー・ハミルトンら現代のソウル表現を担う面々が、敬意を携えて集まっている。その求心力は、アルの歌が時代を超えて愛されていることを改めて証明するものだ。
良い意味で変わらない歌と音には〈昔みたいだ〉との感想もあったそうだが、それに対して「ああ、そうかもね。でも2008年のサウンドだろ?」と返したというアル・グリーン。時は移れど、自身の綴るソウルがあらゆる世代の心に響くことを確信したような、漲る自信を感じさせる発言だ。時代に関係なく通底するソウルの本質を捉え、愛を歌い続けることこそが、永遠に彼の音楽を〈現役〉たらしめるのだろう。