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第75回 ─ キル・ロック・スターズ

連載
Discographic  
公開
2008/03/13   23:00
ソース
『bounce』 296号(2008/2/25)
テキスト
文/冨田 明宏、村尾 泰郎

ふたたび盛り上がりの兆しを見せつつあるUSのインディー・ロック・シーン。その屋台骨を支え続けてきた良質レーベルをクローズアップ!!

 USインディー・ロック・シーンの聖地──なんて言うと大袈裟だけど、ロック・ファンにとって愛すべき街、ワシントン州オリンピア。すぐ近くにはグランジ生誕の地であるシアトルがある。カート・コバーンはオリンピアでロック人生を歩みはじめ、シアトルでニルヴァーナをブレイクさせたのだ。映画「カート・コバーン アバウト・ア・サン」では、ボヘミアン気質に溢れたオリンピアの街が映し出されていたけれど、若者たちがフツーに街角やカフェで音楽をやってる姿は、なんだかとても良い感じだ。そのオリンピアで、サブ・ポップやKと並ぶ老舗インディー・レーベルとしてがんばっているのがキル・ロック・スターズ(以下KRS)。スリム・ムーンという人物によって91年に設立された。

 最初にKRSの名を広めたのはビキニ・キルやフリー・キトゥンといった女性バンドで、ライオット・ガール・ムーヴメントのなか、バンドと共にレーベルも脚光を浴びるようになる。初期のレーベル・サウンドは〈ガレージっぽくて、ちょっと奇妙なフックのある音〉という印象が強かったが、ひとりのシンガー・ソングライターの登場がレーベルの枠を広げた。それがエリオット・スミスだ。彼はKRSから3枚のアルバムをリリースしてレーベルを代表する存在に。一方、KRSの実験的な部分を掘り下げたサブ・レーベルの5RCからは、ヘラやシュ・シュといったアクの強いアーティストたちが紹介された。最近ではディアフーフ、マーニー・スターンなど、ゼロ世代のアーティストの充実ぶりも見逃せない。敷居は低く懐深いKRSは、リスナーに優しいインディー・レーベルであり、とても気持ちの良い軍団なのです。
(村尾泰郎)

BIKINI KILL 『The C.D. Version Of The First Two Records』 
ライオット・ガール・ムーヴメントの立役者が放った初期音源集。冒頭曲で叫ばれる〈We're Bikini Kill And We Want Revolution Girl-Style Now!〉は、パンク・ロックを愛するすべての女性に捧げたい名言でしょう。創設期のKRSを象徴するバンド。
(冨田)

FREE KITTEN 『Nice Ass』(1995)
キム・ゴードン(ソニック・ユース)、ジュリー・カフリッツ(プッシー・ガロア)、YOSHIMI(BOREDOMS)、マーク・イボルド(ペイヴメント)による最強ユニットのファースト・アルバム。ゆる~く好き勝手にやってるようで、時々鋭い爪で襲いかかる野良猫ジャンク。
(村尾)

ELLIOTT SMITH 『Elliott Smith』 Pヴァイン(1995)
オルタナ世代が生んだ偉大なシンガー・ソングライターで、2003年にみずから命を絶ったエリオット・スミス。このたび初日本盤化された記念すべき1作目がこれだ。その悲哀に満ちた歌声と詞の世界観は、〈ロスト・ジェネレーション〉の声を代弁しているよう。
(冨田)

DEERHOOF 『Apple O'』(2003)
ハードコアでフリーキーなバンド・サウンドに、ショートケーキの苺みたいにちょこんと乗ったロリータ・ヴォイス。超絶プレイで破天荒なアレンジを次々とキメまくる!──とまあ、やってることはスゴいのに、どこか飄々としたポップさが魅力。とにかく圧倒的な個性です。
(村尾)

THE MAE SHI 『Terrorbird』 5RC(2004)
メイ・シーなる不思議なバンド名を掲げたLA出身の4人組。このファースト・アルバムは、MELT BANANAにも通じる超高速のスピード感と、ローファイでフリーキーに歪んだポップセンスが音塊となって一気に飛び出す、5RCの実験的なカラーにハマった一品だ。
(冨田)

MIKA MIKO 『C.Y.S.L.A.B.F.』(2005)
現行のライオット・ガール系バンドの中でも、もっともフレッシュな魅力に満ちた3人組の初作。ローファイ感溢れるチープな音作りと、つんのめり気味のギター、グイングインとウネリまくるベースがとにかくクール! 世界各地での盛り上がりは物凄く、日本は出遅れた印象が……。
(冨田)

GOSSIP 『Standing In The Way Of Control』(2007)
NME誌が発表した〈Cool List 2007〉の第1位にも選ばれたべス・ディットー率いる3人組の出世作で、タイトル曲は現在もヒット記録を更新中。KRSを代表する個性派ポスト・パンク・バンドだったが、今年はいよいよメジャーの舞台へと活動拠点を移すことに!
(冨田)