なんでもかんでもボブ・ディランを中心に物事を考えるディラン・フリークの2人が、アンタにディランの魅力を伝えるべく、久しぶりに語り尽くすぞ!!

2人が4か月ぶりに秋葉原で合流。どうやら最近、よくこの街にやって来ているらしい2人なのだが、お互いの目的は知らなかった。彼らは会ってすぐタワレコ秋葉原店へ行くことに。今回は店内をブラブラしながらのトークである。
ダイサク・ディラン(以下DD)「そういやディランがさ、孫の通う幼稚園に行って、園児の前で即席ライヴをやってあげたら、喜ばれるどころか逆に怪しまれたっていう出来事があったろ?」
シロー・ディラン(以下SD)「あぁ、子供らが家に帰って親に〈ヘンなおじさんがやってきて、怖い曲を歌ってた〉って報告したっていうあの悲しいニュース(※1)な」
DD「まったく無知って恐ろしいよ。今日もブルース・スプリングスティーンのことを何もわかっちゃいない会社の若い衆に、彼のロックンロールの凄さについて懇々と説いてやったんだ。でもビックリしたよ、ボスの新作(※2)が出てたんだな」
SD「なになに、昔のボスが帰ってきたって内容らしいぞ。でも、何でいっしょにボスの『Greatest Hits』も持ってるわけ? ベスト盤否定派のお前がさぁ」
DD「いやさ、この機にボスのキャリアの紆余曲折を改めて追ってみようと思ってな。だけどさ、ヒット曲集とはいえ、この選曲に異を唱える奴はゴマンといるはずだよな。そこがボスの凄いところだよ。ディランもそうだ。ひとつのベスト盤でみんなが仲良くするみたいなわかりやすさが絶対生まれないもんな、この2人だと」
SD「〈俺が選べば、もっとこの人の偉大さを語れるはずだ〉っていう気にさせるんだな、きっと。それと、ディランはアルバムごとに表情が変わったりするからね。ロック・サイドにフォーク・サイド、カントリー・サイドと、そういう切り口でいくらでもベスト盤が作れるし」
DD「エロ男サイドとか、怒り男サイド、メソメソ男サイドとか」
SD「もしお前がさ、ディランのベスト盤を作るとしたらどんな曲を入れる?」
DD「まずは“Forever Young”。ただし、バイオグラフ(※3)に入っているカセットテープで録ったデモ版のほう。フィンガー・ピッキングの弾き語りで、あのヴァージョンはもっともディランらしさが出ているような気がする。あの頃は、たくさんブートレグが出回ってて、それを逆手に取るように、ブートで有名なトラックもまとめてアンソロジー的なものを出してみたら大ヒットした。こういう隙間だらけの弾き語り曲ばかり集めたベストなんてあるといいよな」
SD「俺はブートレグ・シリーズのボックス(※4)に入っているアウトテイク“Series Of Dreams”をメインに据えるベストを作りたいね。尖りディラン曲を集めたベスト! これが陽の目を見たときに、〈何でボツにしたの?〉ってみんな首をひねったよね。サウンドがあまりにU2っぽいからかな?」
DD「〈オー・マーシー〉(※5)のアウトテイクだな。自伝で語ってなかったっけ、〈良い曲がいっぱいあったんだけど、アルバムのトータリティーを考えて選曲した〉って」
SD「ホント、ディランって名曲を作っても平気でポイッと捨てちゃうようなところがあるよね。あまのじゃくっていうか。俺さ、最近はトラヴェリング・ウィルベリーズ(※6)のセカンドに入ってる“7 Deadly Sins”にハマってるんだ。あの3連符の曲」
DD「そういえばディランは〈3連でギターを弾けばどんな曲ももっと自由になるってことを発見した〉って語ってるんだよな」
SD「スウィートな曲を集めたベストもいいかもな。で、もしロックなディランのベストを作るなら、“Like A Rolling Stone”は映画〈ノー・ディレクション・ホーム〉の冒頭を飾ったあのヴァージョン(※7)を入れたいね。俺、オリジナルのスタジオ・テイク以上に好きかもな。じゃあさ、タイトルつけるとしたら何にする?」
DD「そうだな~、シンプルに〈Dylan〉かな。あ、ほら、あそこにボスの特設コーナーがあるぞ。ん? あれはいったい……」
ダイサクが指差した先には、真っ赤な大パネルが。そこには『Dylan』(※8)というCDがズラリと並んでいた。実はこの2人、ボスの新作ばかりでなく、ディランの最新ベスト盤がリリースされたことも知らなかったのだ(間抜けにもディラン・コーナーをチェックしていなかった)。昔話はやたらと詳しいくせに、最新情報にはてんで疎いこのおっさんたち。華やかにディスプレイされた特設コーナーの前で呆然と立ち尽くす2人であった――。(続く)