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I ラテン・ロックの成り立ちと特徴
ほらほらどうした~、皆やつれた顔しちゃって~。よし、今回は夏バテ気味の君たちにラテン・ロックのエキスを注入してあげるとするか。ラテン・ロックとは、アフロ・キューバン・リズムにロックやブルースなんかをねじ込んで生まれたミクスチャー音楽なんだね。その雛形を作ったのがご存じ、カルロス・サンタナ率いるサンタナさ。とにかく彼らが放つホットな音楽が強烈かつ新鮮で、みんなを驚かせたんだ。60年代後半から70年代初頭にかけて、彼らの後を追うように、アメリカ西海岸のチカーノ系(メキシコ系アメリカ人)ミュージシャンたちによるラテン・ロック・バンドが登場し、このスタイルを流行らせたんだ。それから、ラテン・ロックの多くは英語とスペイン語のバイリンガルをアピールしていて、チカーノ・コミュニティーの人たちに支持された。これぞ我らの音楽!というふうに大歓迎されたわけ。70年代初頭と言えば、アメリカでチカーノたちが連帯するムーヴメントが数々起きていた。そういうパワーの象徴としてラテン・ロックがあったと捉える向きもあるね。〈ロック〉と付いているけど、実際はソウルやファンクなど、黒人音楽のエッセンスを大々的に取り込んだバンドも多くいて、全部を一括りにして語られている(チカーノたちにとっても黒人音楽は身近でリアルなものだったから)。それらの要素とルーツのラテン音楽を並列に扱い、自然な形で同居させているのがラテン・ロック・バンドのおもしろさだな。でも、ラテン・ロックが華々しかったのはごく短期間。サンタナがこのスタイルから離れたのは意外に早くて、ディスコが台頭してくる直前に火は萎んでいった。ただ、70年代の熱狂の記憶としてラテン・ロックをいまも愛する者はチカーノのみならず、世界中にいるよ。先生を含めてね。