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第122回 ─ ジャズマタズ復活で再注目のジャズ・オン・ザ(ヒップホップ)コーナー

連載
360°
公開
2007/06/14   19:00
ソース
『bounce』 287号(2007/5/25)
テキスト
文/汐田 琴音

JAZZMATAZZ : BACK FOR MORE


 ジャズもまたヒップホップの父であり、ヒップホップは現代のジャズである──ある側面において90年代はそんな事実が確立された時代だったと言えるのかもしれない。トライブ・コールド・クエストらがサンプリングでジャズとの距離を縮め、US3はブルー・ノートと契約し、ディガブル・プラネッツは『Rebirth Of The Cool』を発表。帝王マイルスは(そろそろ評価されるべき)ヒップホップ・アルバム『Doo Bop』の設計図をイージー・モー・ビーに託してこの世を去った。当然、そこにはギャング・スターのふたり──グールーとDJプレミアの名も連ねられるべきだろう。

 彼らもまた80年代から〈ジャズ〉に挑んできたが、映画「モー・ベター・ブルース」のサントラに提供した“Jazz Thing”の高評価に押され、プレミアはブランフォード・マルサリスとバックショット・ルフォンクを結成。それに対し、本稿の主役であるグールーが立ち上げたプロジェクトこそジャズマタズである。93年の『Jazzmatazz Vol. 1』ではドナルド・バードやロニー・リストン・スミス、コートニー・パインなどUKのレア・グルーヴ~アシッド・ジャズ景気にも目配せしたようなプレイヤーを楽曲ごとにフィーチャー。2年後の第2弾『Jazzmatazz Volume II : The New Reality』ではフレディ・ハバードにバーナード・パーディ、ルーベン・ウィルソンなど顔ぶれをややソウル方面にシフトさせつつ、引き続き高い評価を得ている。ただ、2000年の第3弾は折からのブームに乗った完全なネオ・ソウル~R&B作品へと変貌し、以降のグールーはノーマルな自身名義の作品にフォーカスしていった。

 が、7グランドの設立とギャング・スターの実質的な活動終了を経て、今回戻ってきたジャズマタズの『Jazzmatazz Vol. 4』は、ふたたびクールでスタイリッシュな〈ジャズ〉作品に回帰している。ボブ・ジェイムスやロニー・ロウズといった〈ヒップホップの父〉や大御所のデヴィッド・サンボーン(!)、新進トランペット奏者のブラウンマン(ニック・アリ)らを招く一方で、ヴィヴィアン・グリーンやケム、ラヒーム・デヴォーンといった実力派のシンガーや、レゲエ界からはダミアン・マーリー、そしてもちろんコモンやスラム・ヴィレッジといったMC陣もフィーチャーしている。そうした素材を透徹したクールなヴァイブへと調合していく懐の深さはグールーならではだ。この動きが、善くも悪くも90年代志向になってきた音楽シーン全体の流れに添うものなのかどうかはさておき、いずれにせよ小手先の〈ジャジー系ヒップホップ〉とは似て非なる深い〈ジャズ〉の豊かな聴き心地を堪能していただきたい。
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▼グールーのジャズマタズ作品を紹介。

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