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第114回 ─ ついに凱旋を果たしたトリルの女王、DJ PRINCESS CUTとは何か?

連載
360°
公開
2007/04/12   16:00
更新
2007/04/12   17:16
ソース
『bounce』 285号(2007/3/25)
テキスト
文/Masso 187um


 2006年のヒップホップ・シ-ンではT.I.やヤング・ジーズィらアトランタ勢の猛攻が目立ったが、今年は2005年同様にテキサスのシーンがクル!とここで予言しておこう。ボス・ホッグ・アウトロウズを皮切りに、リル・フリップ、ポール・ウォール、カミリオネア、マイク・ジョーンズと続き、真打ちのUGKまで話題作が目白押しなわけだから予言というのも偉そうだが、そんなテキサス・シーンへの追い風をさらにグググッと煽り立ててくれそうなのが、DJ PRINCESS CUTの日本凱旋デビュー作にあたるミックスCD『DOWN SOUTH HUSTLIN'』だ。テキサス州ダラスを拠点に活動している彼女は、そのスジのもっともディープなところで活動してプロップを得ている、情熱大陸級のヤバイDJ/プロデューサーである。

「ダラスを選んだのは、日本人がいないところで英語を勉強したかったから。あとはもともとサウスの音楽、バンドにしても南部の音楽が好きやったからね。初めはロックが好きで、ギターをやってて。女の子3人組のバンドをやってましたよ。フラメンコ・ア・ゴー・ゴーみたいな(笑)」。

 いまやサウス・シーンを抜きにヒップホップが語れないのは衆知の事実なわけで、今作はそんないまのヒップホップのもっともホットな箇所を美味しいトコ獲りしたブツでもある。また、そうした事実や魅力が十分に伝えられているとはまだまだ言えないサウス後進国(?)の日本にとっては、マーケットの流れを変えてしまう重要な作品に成り得る可能性も秘めているのだ。

「今回はサウスで盛り上がる曲をギッシリ詰め込みました。基本的にはスクリュー・ミュージックをイチ押しでやっていきたいけど、クラブや車で楽しめるようなミックスもやっていきたいから。かなりトリル*な選曲で、スリム・サグの“3 Kings”は大好きやし、カミリオネアもサウスNo.1のリリシストで昔からファンやし。あと、ダラスのトム・トムはホットな存在ですよ~。それと私がやった“Dallas Mic Pass(Remix)”はエクスクルーシヴな音源なんでぜひチェックしてください」。

 その“Dallas Mic Pass(Remix)”はその名のとおり、ダラスのラッパーを集結させたマイクリレー曲で、これは彼女の呼びかけで実現したエクスクルーシヴ音源。すでにシーンのスポークスマン的な役割まで果たしているようだ。

「完成まで半年くらいかかりましたけどね……ラッパーを選んだり、ヴァースを集めたり、トラックを選んだり、フックを作ったり。でも、こだわりたかったからね。ダラスを代表できる、盛り上げる曲になるし。参加したラッパーからも、〈こんなきっかけが欲しかった〉って感謝されたし、思い入れはありますよ」。

さて。グラフィックからヒップホップ・カルチャーに触れ、DJへ転進した彼女がテキサス・オリエンテッドな音楽=チョップド&スクリュードに魅了されるのに、さほどの時間は要しなかった。

「最初は友達の車で聴いて、〈コレは何!? この遅さは何!?〉って思った(笑)。普通にカッコイイと思ったし、私のなかでグッとくるものがあったんやけど、初めはトライっていうよりも、どんなふうになってんやろ~って思ったくらい。ターンテーブルを持ってたからいちばんピッチを遅くしてみたり、実験的なことはやってみたけど教えてくれる人とかおれへんから、ひたすら自分で研究して」。

 そして、いまや「チョップド&スクリュードは必需品(キッパリ)」と言い切る彼女。そこまで彼女をトリコにしてしまったスクリュー・ミュージックの魅力とは何なのだろう?

「難しいなぁ~、ホンマに好きやから。ここが好き、って言うんじゃなくて全部が好き。聴いた感覚、かな。あとは実験的な感じで自分が技とか音を追求していけるし、そういうのが好きなんですよ。だからどっちかと言えば……オタク系なんかな(笑)。自分でスクリュー・ミックスをやってて〈コレはヤバ~イ!
 この技はまだ誰も使ってない!〉っていうのが気持ち良いかなぁ(笑)」。

*トリル(TRILL):True+Realが由来とされるテキサスのスラング


チョップド&スクリュードの創始者、DJスクリューの編集盤『The Legend』(Big Tyme)

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