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第106回 ─ 鈴木惣一朗が語る!ビートルズへの『Love』と〈りんごの子守唄〉

連載
360°
公開
2006/12/07   15:00
更新
2006/12/07   22:26
ソース
『bounce』 282号(2006/11/25)
テキスト
文/桑原 シロー

シームレスな『Love』は……まるで僕の頭の中のよう!!

 鈴木惣一朗と『Love』を聴きに行く。ビートルズの話題の新作試聴会に、大のビートルズ・フリークであり、ビートルズのララバイ・カヴァー集である〈りんごの子守唄〉の第2弾『Apple of his eyes りんごの子守歌』を作ったばかりの彼にご同行いただいたのだ。鑑賞中は終始〈フムフム、なるへそ〉と呟きながらペンを走らせていた惣一朗であるが、試聴会終了直後の彼にアルバムの感想を訊くと……。

  「〈シームレス〉がコンセプトだと思うんだけど、ズバッと言えば、僕の頭の中のようでした。例えば僕がビートルズのことを考えるとき、ひとりひとりのことを考えるんじゃなくて、4人のことを同時に考える。そうすると『Love』のようなサウンドが頭の中で鳴るんです。それを具体的に聴かされたので、その……(笑)。ビートルズのアーカイヴをまとめ上げるのに、このコンセプトは向いていたってことですね。そういえば、以前ポール(・マッカートニー)の来日公演では、客入れの時間にウィングスの曲とかをコラージュみたいにして流していた。ああいうのを具体的にソフトにした感じかな。彼はもともとこういうセンスを持ってるはず。ポールは今回のプロジェクトを〈もっとやれ〉って推奨してるらしいんですけど、今回はポールの曲が少ない(笑)。そもそも彼の曲はイジりにくいはず。完成度が高いし、アレンジと一体化してるので。だから実験性の強いジョン(・レノン)やジョージ(・ハリソン)の曲をマテリアルにしようってことになったんじゃないかな」

――う~ん、なるほど。

「(ビートルズのプロデューサーであった)サー・ジョージ・マーティンと息子のジャイルズが手掛けているので、徹底的にやってくれてるし、ヌルくない。痛快だった。血族の問題を意識させますね、これは。そうそう、こないだショーン・レノンの新作を聴いてものすごく感激したんだけど、ポール色が強いんですよ。あのね、世界中でジョンをいちばん愛していたのはポールなんじゃないかな、と。お互いがそう思ってたはず。で、今回ショーンは、ジョンになってた。彼はポールのことをすごく好きになってるんですよ。この罪深い因果関係も血の問題を感じさせますね。あと、“All You Need Is Love”の原曲ではアウトロで“She Loves You”を遊びで挟み込んでるでしょう? 考えてみれば、彼ら自身も当時すでに〈シームレス〉を実践してたんですよね。あの曲が(今作の)ヒントになったんじゃないかな。だからエンディングにくるってことに意味がある。そして、このトリッキーな編集作業があまり不自然に聴こえなかった。あと、断片を組曲にしているところは『Abbey Road』のB面的でもありますね。それがいまのテクノロジーのおかげで、より過激な組曲になった。ソースが星屑みたいになってますよね、チラチラとしてて。若い子たちは素直に受け入れられると思う。例えば……ベックの編集感覚。彼の新作もそうだけど、自分の素材をリミックスしてしまう音楽に慣れている子たちには全然違和感ないはず。

――ちなみに、試聴中にかなりメモを取られていたようですが……。

「(メモに目をやって)〈ジョージ・マーティンの怨念〉って書いてあるな(笑)。コアなファンは“Strawberry Fields Forever”を、〈イジりすぎたんじゃないか〉と言ってたりもする。サー・ジョージはそこにメスを入れていきますね。自分の偉業を正当化する〈執念〉をそこに見た気がしました。未発表のデモ曲と当時イジり倒した完成作をまたいっしょに繋げてみるなんて、相当カルマは深いでしょう」

▼文中に登場したアーティストの作品を紹介