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第3回 ─ あの故郷(カントリー)へ帰ろかな

連載
ディラン・ディラン
公開
2006/11/09   23:00
ソース
『bounce』 281号(2006/10/25)
テキスト
文/編集部

なんでもかんでもボブ・ディランを中心に物事を考えて日常を送るディラン・フリークの2人(プチ中年)が送る、調子っぱずれな〈ディラン愛〉トーク!!


  ディランが流れる大人の隠れ家的なおしゃれバーがあるらしい、というウワサを聞きつけた2人は、さっそくそのお目当てのバーを探して薄暗く人気のない渋谷の街はずれを彷徨っていた――。

シロー・ディラン(SD)「ア・ハード・レインズ・ゴナ・フォール(※1)な感じだぜ」

ダイサク・ディラン(DD)「うわっ、降ってきたぞ! バケツ・オブ・レイン(※2)だ!」

SD「早くシェルター・フロム・ザ・ストーム(※3)を探そうぜ!!」

DD「ここかな? 〈Bar 北国の少女〉(※4)って書いてあるぞ!……」

SD「……コレ、濡れて壊れちゃったかなあ」

DD「お前、まさかNapsterの時代にカセットテープレコーダーで音楽聴いてるんじゃないだろうなっ!? 時代に逆行してる、っつうか……まるで、ロック・ルネッサンス~カウンター・カルチャーの時代に、ディランが〈ナッシュヴィル・スカイライン〉(※5)を作ったみたいな感じじゃんかよ」

SD「ていうか、ここバーじゃなくて、いわゆるスナックなんじゃん? ママさんっぽいヒトがカラオケ歌ってるし」
(「帰れない二人を残して~♪」(※6))

DD「いや~、やっぱ名曲だよなぁ……。思えば、陽水の歌声って〈ナッシュヴィル〉の甘ったる~いディランとソックリだよな」

SD「そういえば、この曲を陽水と共作したキヨシローの新作(※7)もナッシュヴィル録音だったし。〈ナッシュヴィル〉は、時代に左右されず気の向くままに我が道を行くっていうディランの性格を知らしめた一枚だったよな」

DD「次こそは革命的なロック・アルバムを出してくれるだろうって世界中がメチャメチャ期待してるなかで、カントリー帽片手にニッコニコな笑顔で、どカントリーをかましてくれたんだもんな」

SD「でも、70年代の〈バック・トゥー・ルーツ〉〈ディスカヴァー・アメリカ〉っていう音楽シーンの流れの口火を切ったのも、やっぱりディランだったとも言える」

DD「時代は変わる(※8)ってことだ。やっぱ預言者、予知能力者なんだよ」

SD「ある意味、ラディカルな行動だよな」

DD「戦争があって世界が混沌として緊迫感に包まれてるときに、煙草を止めてマイルドになった声でほのぼのとして気が抜けたカントリーを歌うっていう」

SD「バイク事故で首を折って、なんか憑いてたものが落ちたのかもな」

DD「同世代の若者たちが反戦、革命、ラヴ&ピースという強いメッセージを激しく好戦的に叫びまくってたときに、とりとめもないラヴソングばっか呑気に歌ったりして。いま思えば、いちばんラヴ&ピースだったのはディランだったのかも」

SD「混迷する時代のムードに対しての倦怠感も表してたんじゃないかな」

DD「そんで、今度こそは……って世界中が祈るように待ち望んでいたにも関わらず、次のアルバムが〈セルフ・ポートレイト〉(※9)。〈自画像〉ってタイトルで他人のカヴァーをかましまくるっていう」

SD「ファンはさらにガッカリっていうか、唖然とさせられたんだろうなあ」

DD「〈ビリー・ザ・キッド〉(※10)でフツーにハリウッド・デビューしたりして」

SD「〈ナッシュヴィル〉っていえば、男汁出しすぎで絶倫対決って感じのジョニー・キャッシュとのド渋なデュエットだよなあ」

隣のオヤジ「いやぁ~、やっぱ絶倫だよねえ。金髪の嫁さんもらっちゃってなぁ~」

DD「オヤジさんわかるねえ~。この頃ディランは嫁さんのサラと子供といっしょに、田舎に籠もって暮らしてたんだもんね」

SD「〈ナッシュヴィル〉は、春っぽいポカポカしたサウンドがいいんだよなあ~」

オヤジ「そう、やっぱ北国の人にとって春っつうのはアレだよ……」

ママ「ほら、もう閉店だからみんな起きて!」

オヤジ「おぉ、沙羅ちゃん。お勘定!」

DD「アイ・シ~・マイ・ライト、カ~ム・シャ~イニ~ン♪」

SD「この朝の眩しい光、アイ・シャル・ビー・リリースト(※11)な気分だねえ」

オヤジ「季~節がぁ都会で~はっわからない♪っと」

DD「そう、やっぱカントリーだよね!」

オヤジ「あの故郷へ帰ろかな~♪(※12)」

SD「ニュー・モーニング♪(※13)……」

 雨上がりの新しい夜明、強烈な陽の光に包まれながら帰り道がわからず家に帰れない二人は、解放感を感じながら太陽へ向かって歩いていく……。(続く)

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