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第102回 ─ イザベル・アンテナのエッジーでポップな音楽遍歴を総ざらい!!

連載
360°
公開
2006/10/12   22:00
更新
2006/10/12   23:48
ソース
『bounce』 280号(2006/9/25)
テキスト
文/村尾 泰郎


  イザベル・アンテナというアーティストがもっともよく知られていたのは80年代のことだが、それ以前も、またそれ以降も、彼女は時代の空気と自分の個性を音楽というパレットで色鮮やかに溶け合わせてきた。

 物語の始まりは、フランス出身の19歳の女の子=イザベル・ポワガが友人2人と立ち上げたユニット。そのユニット名こそがアンテナだ。アストラッド・ジルベルトで知られる名曲〈イパネマの娘〉を、エレクトロニックなタッチでカヴァーしたデビュー曲“The Boy From Ipanema”で、3人は一躍注目を集めることになる。さらにその後、ミシェル・ルグラン作〈ロシュフォールの恋人たち〉もカヴァー。後のカフェ・ミュージック文化を先取りしてみせたようなアンテナだったが、82年の『Camino Del Sol』だけを残してユニットは解散。イザベルはイザベル・アンテナ名義でソロ活動を続けることになった。

 86年に発表した初ソロ・アルバム『En Cavale』は、ファンク・フレイヴァーをまぶしたダンサブルな一枚。続く87年の『Hoping For Love』では、ボサノヴァやジャズを中心にしっとりと聴かせて、このあたりから洗練されたアンテナ・カラーを打ち出していく。歌声も、初期のはにかんだような声から、凛としたものへしなやかに変化。母親になったのもこの頃だ。彼女はシャーデーと比較されたりしながら、ファッション誌でも〈理想の女性〉として取り上げられることが多くなっていく。

 90年代に入ってからは、妹と組んだ新ユニット、ポワガ・シスターズでダンス・ミュージックにアプローチ。また、イザベル・アンテナ名義ではアシッド・ジャズを採り入れた『Plus Acid Que Jazz』を94年にリリースした。さらにポワガ・シスターズのほかにも、カリフォルニア・サンシャインやシェイプ、そしてポーズ・カフェなどさまざまなユニットで、アシッド・ジャズやハウスなど、イザベルの〈アンテナに引っ掛かる〉カッティング・エッジな音を探し続けていく。そんななか、アンテナ名義のポップでリラックスしたアルバムをリリースしたりと、硬軟自在なフットワークの軽さも彼女の大きな魅力となって現れてくる。

 そして、21世紀に入って彼女の周辺は新たな変化を迎える。福富幸宏やシーヴェリー・コーポレーションといった新世代のミュージシャンたちとの交流が始まったのだ。今年だけでも2枚目となるニュー・アルバム『French Riviera』――本作で聴くことができる彼女の変わらぬ瑞々しい歌声は、往年のファン、そして未来のファンへの大きな贈り物になるだろう。アンテナという物語の新章は、いま始まったばかりだ。