なんでもかんでもボブ・ディランを中心に物事を考えるディラン・フリークの2人が、アンタにディランの魅力を伝えるために今日も語り尽くすぞ!!

始発が来るまで夜どおし高尾駅のベンチで、イヤホンを分け合ってディランの新作(※1)をいっしょに何度も聴いては、ディランの素晴らしさについて語り合った2人。それから数週間後、2人はまたしても終電近くのJR新宿駅のホームにて同じタイミングで中央線に飛び乗った――。
ダイサク・ディラン(DD)「(スポーツ新聞を読みながら)日本代表にもジダンみたいな最高のプレイヤーがいてくれればなあ。走・攻・守すべてを兼ね備えてて、決定的かつ芸術的な仕事をしてくれるやつがね」
シロー・ディラン(SD)「ジダンって頭突き男のことか?」
DD「ていうか、ワールドカップのMVPって呼んでほしいね。あるいは、史上最高のファンタジスタとかさ」
SD「ディランのアルバムでいえば〈ハイウェイ61〉(※2)みたいな存在ってことか」
DD「まあな。ディランの最高の一枚っていえば、やっぱりロックしてロールしまくってる〈ハイウェイ61〉だよな。じゃあ、ベスト3を挙げるとしたら、他の2枚は?」
SD「3位は〈フリーホイーリン〉(※3)だな。プロテスト・ソングがメインにあってフォーク・シーンの急先鋒になったやつ」
DD「お前は俺と違ってロッキンなものよりフォークなほうが好きだもんな」
SD「で、2位は〈ハード・レイン〉(※4)」
DD「おいおい、あのアルバムのどこがフォークなんだよ!? バリバリなハード・ロックじゃんかよ!」
SD「フォークってのは裸なんだよ。このライヴ盤のディランはズルムケだぜ。ヤケクソみたいにハードなところもさ」
DD「俺は、3位が〈アナザーサイド〉(※5)かなあ。メロディーもキレイだし、歌詞もキレッキレないい曲ばっかり入ってる」
SD「どこがロッキンなんだよ!? バリバリの弾き語りアルバムじゃんかよ!」
DD「〈俺じゃないんだよ、お前が探してる男は〉なんて、ポップ・ミュージックでここまで成熟したキザな失恋ソングはなかったでしょ。それに、やたらと〈No!〉を連発してるところなんて精神的にロック、っていうかパンクだし。で、2位は〈ブラッド・オン・ザ・トラックス〉(※6)。失恋男の裸の心をここまで見事に描いたアルバムを他に知らないよ」
SD「……ゴメン、俺もこの裸なアルバムをランクインさせたいから、ベスト5までにしようぜ。4位が〈ブラッド・オン・ザ~〉で、5位は〈ブリンギング・イット〉(※7)」
DD「お前、1曲目の“Subterranean Homesick Blues”はロッキンなディランが最初にお目見えした曲じゃんかよ。“Maggie's Farm”のヴォーカルだってジョニー・ロットンみたいにパンクだし」
SD「いや、あれはトーキング・ブルースだからフォークに入るんだよ。弾き語りの“Mr. Tambourine Man”も入ってるしな」
DD「でもお前、“It's Alright, Ma(I'm Only Bleeding)”と “It's All Over Now, Baby Blue”の怒りと諦めに支配された吐き捨てるような攻撃的歌詞はパンクだろ」
SD「でも曝け出すってところがフォークじゃないかよ。“Maggie's Farm”はプロテスト・ソングだし、労働者の視点って意味じゃブルースだぜ」
DD「でも〈It's Alright, Ma~〉では血を流してるぜ? ギター・プレイも曲構成も超早口ヴォーカルもアヴァンギャルドだし」
SD「でも怒れるディランにとってジョニー・キャッシュ(※8)なんだよ、あの曲は」
DD「ジョニーはロックンローラーだぜ!」
(車掌:お客さんたち、もう終点ですよ~)
SD「(無視して)じゃあジョニーのこの一枚!って言ったら何を挙げるんだよ!?」
DD「関係ねえだろ!? ジョニーもディランもロックンロール・スターなんだよ!!」
SD「いや、カントリー・スターだね!!」
DD「話にならんわ! じゃあな!!」
――上りの最終電車のなくなった高尾駅を降りた2人は、甲州街道を東西に別々の方向へ歩きはじめながら、それぞれに独り言を呟いていた。
SD「確かにアイツの言うとおり、〈ハイウェイ61〉の噴き出すような激情は何度聴いても刺激的でロッキンだよなあ……」
DD「アイツが言ったように、〈ハイウェイ61〉にしても、どんな装飾を加えたって楽器が変わっただけで、結局のところ歌自体は剥き出しで裸なんだよなあ……。甲州街道はもう秋なのさ(※9)♪だよなあ……」
うら寂しく薄暗い真夜中に独りぼっちでトボトボと歩く2人の心には、鈴虫の鳴く声だけが響き渡る秋の甲州街道がハイウェイ61に感じられてしょうがなかった。(続く)