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第12回 ─ エンドレス・サマー

連載
ライド音タイム
公開
2006/09/21   13:00
更新
2006/09/21   21:02
ソース
『bounce』 279号(2006/8/25)
テキスト
文/久保田泰平 & ザ・パシフィック・ブルー

時代や世代を超えて輝き続けるジャパニーズ・ナンバーの数々。そんな名曲たちをカーステで流しながら、今日も気ままなドライヴへGO GO!

――今日も仲良くドライヴ中の達也とトオル……おっと、今日はもうひとり! 達也のガールフレンド、愛ちゃんもいっしょです!

達也「さっきからずっと外の景色ばっか眺めてるけど、どうかしたの?」

トオル「達也クンったら、ロマンチックじゃないのねん。オレはいま、夏の終わりを惜しんで、ちょっと感傷に浸っているところなのよん」

達也「っていうか、みんなといっしょのときに自分の世界に入らなくてもいいだろ」

トオル「このねえ、クルマの窓越しに流れていく晩夏の風景がいいんだってば。なんでわかってくれないんですかぁ!……あっ、いまの畠山鈴香容疑者のマネね」

達也「……」

「その気持ちわからないでもないです」

達也「まあ、オレもわからなくはないけど……。それはそうとさぁ、なんでトオルが助手席に座ってんだよ。このメンツだったら、フツーはうしろだよな」

トオル「あっ、ゴメンチャイ。いつものクセでつい前に乗っちゃった。でも、そう言いながら、ルーム・ミラー越しに目配せしちゃったりして楽しんでんじゃないのぉ!」

達也「(無視)。愛ちゃん、ノド乾かない?」

「うん、私は大丈夫だけど、タックンとトオルさんは?」

トオル「おっ、達也ってタックンって呼ばれてんだぁ!」

達也「いちいちうるさいの! そんなこと言ってないで、音楽でもかけろよ!」

トオル「ハ~イ。オレが昨日買ったCDもあるけど」

達也「なに買ったの?」

トオル「え~っと、『Niagara SUMMER~Niagara Cover Special~』ってやつ。こないだ〈春盤〉が出てたシリーズの〈夏盤〉」

「あっ、それ私も買いました。“カナリア諸島にて”って曲、好き」

達也「オレも聴いたけど、全部イイ感じのカヴァーだった」

トオル「そうなんだあ。実はオレ、買ったけどまだ聴いてないんだよね。まあ、これはウチに帰って聴こうかな。ここはひとつ〈いつもの箱〉(注)から……」

達也「愛ちゃん、そこにある箱から、良さそうなカセットテープ選んで。そうだなあ、夏っぽい感じのがあれば」

「あっ、これなんかどう? 〈エンドレス・サマー〉っていうの。これ、インデックス・カードっていうんだっけ? なんか、ジャケットの写真っぽいものが曲ごとにプリントされてて、ほとんど海の景色!」

達也「親父も凝るなあ」

トオル「どんな人の曲が入ってんの?」

「今井裕、ブレッド&バター、角松敏生、山下達郎……」

達也「おっ、1曲目からすごくメロウで雰囲気のある曲だなあ」

トオル「ちょっとせつない気分になるにゃあ(と言って、窓の外に目をやる)」

達也「しらじらしいリアクションすな!」

「でも、夏が終わるって思うと、ちょっと感傷的な気分になっちゃうよね」

達也「今年の夏もいろんな想い出ができたなあ……」

「水族館にも行ったし、花火も見に行ったし……」

トオル「オマエら、いつのまに!……うらやまちい(ショボン)」

「合コンで知り合ったっていうカノジョはどうしたんですか?」

トオル「あっ、美穂ちゃんね。美穂ちゃんはアルバイトが忙しいみたいで……」

達也「最近、美穂ちゃんのこと言わないなと思ったら、そういうことだったんだな」

「じゃあ、これからトオルさんの夏の想い出を3人で作りに行きましょう!」

達也「そうだな。ションボリしたトオルの顔を見てるのもなんだし」

トオル「くくぅ!(涙)。達也、愛ちゃん、ありがとう!」

――中学生の時に聴いた広末涼子のアルバム『ARIGATO!』は名盤だよなあ……と心でつぶやくトオルを乗せて、達也の愛車は海沿いに向かって走る。
 2006年9月。夏は終わらない。

登場人物紹介/
達也……のほほ~んとキャンパス・ライフを送っている大学3年生。意中の愛ちゃんとは友達以上恋人未満。 
トオル……達也のキャンパス仲間。ちょっと前にコンパで知り合った美穂ちゃんにイレコミ中。意外と純情。 
達也パパ……編集テープ作りが趣味の、ちょっと古風な音楽ファン。高校時代は甲子園に出場したこともある。

(注)いつもの箱……達也の愛車の後部座席に置いてある〈いつもの箱〉には、達也パパが編集したカセットテープがごっそり入っているんです!