すっかり〈夏の風物詩〉として定着したFUJI ROCK FESTIVAL。今年は3日間とも雨にたたられ、テントの人たちには特に辛い記憶も多かったのではないでしょうか? でもやっぱり、これだけ音楽に満ちていて、多幸感を感じるフェスはやっぱりほかにはないと思ったりもして。そんな、最高のメンツとナイスなシチュエーション(あとお酒)によって引き出されたマジックの数々を、さっそくレポートいたします。

7月29日(金) Your Song Is Good、Cake、TOKYO No.1 SOULSET、Prefuse 73、Coldplay、忌野清志郎&NICE MIDDLE with NEW BLUE DAY HORNS、DJ MADLIB、TAKKYU ISHINO
■Your Song Is Good

© Masanori Naruse
初日の朝は、〈快晴〉とまではいかないものの、雲が空全体の4割を占める程度のおおむね晴れ(とはいえ雲があっても充分暑い)。初日一発目はYour Song Is Goodで幕を開けた。暗くて湿ったライヴハウスでも過剰な開放感を体感させてくれる彼らのことだから、苗場の山中でやると開放過多で死人が出るんじゃないの?なんて朝のビールを飲みつつ呑気に冗談なんか言い合っていたものの、ライヴ直前まで場内はスッカスカ。「うわ、これ大丈夫か?」という不安を抱いたままライヴはスタート。1曲目“"2,4,6,6,1,64"number”が始まるや否や強烈なモッシュが巻き起こる。モッシュピットは踊る奴、跳ねる奴、叫ぶ奴、よだれを垂らす奴と大宴会状態に。ディズニーのコンピ盤に収録されている“Under The Sea”、「アーハ」の掛け声をコンビネーションでまわす熱帯ロック“熱帯BOY(新曲)”でも、好調に観客のペースをコントロールしていく。去年の個人的ベスト・アクト、Little Tempoと同日同時刻同会場スタートだった彼ら。終盤にはリトテンにも負けない集客を見せ、高揚感の抜け殻状態になった後に思ったのは、「なんだよ、心配して損した」ってことでした……。(*ヤング係長)
■ケーク

© Masanori Naruse
今回のフジロックで、見逃せないアーティストNo.1候補として自分が挙げていたのがこのケーク。本国アメリカでは絶大な支持を得ているんだけど、日本での知名度がイマイチなためか、来日ライヴは実に8年ぶりになるという。CDを聴いて、キャレキシコ辺りに近いかな?なんて思っていたけど、向こうがマリアッチの伝統を汲む音楽だとしたらこちらは完全に自分解釈のミクスチャー。ゴミ捨て場に落ちてそうなボロボロのアコギ(ピックアップはガムテープで装着!)に歪み系のエフェクトをガンガンにかけ、キーボードとトランペットとピアニカのフレーズをサンプリング的に挿入する。オルタナを通過しつつも強烈に〈乾いた〉サウンドが醸す無国籍っぷりはクール過ぎ! 中盤から雨が本降りになってきたにも関わらず、“Daria”のサビ部分を合唱する声がグリーンに響き渡っておりました。次はぜひ単独で来日を。ちなみに、フロントマン、ジョン・マクレアの徹底的に垢抜けないルックス(髭にサングラスにキャップ)もこのバンドの魅力なんだということを確認した次第であります。(*ヤング係長)
■TOKYO No.1 SOULSET
〈フィールド・オブ・ヘヴン〉で昼寝を決め込んでいると、上空より雨粒が顔にポタリ。初日のしょっぱなにして降り出した突然の豪雨に「これがフジの洗礼か~」とひとりごちたところで、東京NO.1 SOUL SETの面々が登場。相変わらずの飄々とした居振る舞いを見せる彼らが冒頭から繰り出したのは、名曲“黄昏'95~太陽の季節”! すると、湧き上がる大合唱と共に雨脚は弱まり、空に日の光が戻り始めるではないですか。「これが苗場マジックか~」とひとりごちる間もなく、今度は、6年ぶりの新作『Outset』のナンバーが連続投下。その強力な4つ打ちビートとダブワイズされたサウンドに導かれ、ステージ前では大ダンス大会が勃発。サポートメンバーによる生のベース&パーカッションも効いております。新旧の楽曲を織り交ぜたセットを展開し、オーディエンスからの熱い声援を浴び続けた彼ら。音のスタイルは移ろいつつも、そこに込められた男のロマンティシズム=ソウルセットの美学は不変でありました。(*湘南乃パンダ)
■プレフューズ73

© Masanori Naruse
続いて足を運んだのは〈ホワイト・ステージ〉のプレフューズ73。事前情報を持ち合わせぬまま「やっぱりラップトップなんかな~」なんて具合に、若干高をくくりつつ臨んでみたところ、あまりのフィジカルなステージにびっくり仰天。ツイン・ドラムを中心とする生バンドが、ぶっといビートを叩き上げつつ、一秒先の展開が読めない人力チョップなアンサンブルを展開。プログレ・ミーツ・ヒップホップとでも言うべき異形サウンドが生成するグルーヴに、オーディエンスは完全にロック・オン。終演後は、やんやの大喝采でした。いやはやあっぱれ!(*湘南乃パンダ)
■コールドプレイ

© Masanori Naruse
新作『X&Y』を聴いて思わされるのは、彼らの生真面目さや優等生的な立ち位置についてだ。持ち味であるメロディーや演奏テクニックについて文句をつける気にはならないのだけど、完璧主義的な部分にすんなりと了解できないところがあるというかなんというか…。そんなことを思いながら観た彼らのライヴは、こっちのチマチマした疑念を軽く上回る、エンターテイメントとしてのポテンシャルが圧倒的なものだった。楽曲の再現度や完成度に関しては言うまでもなく、なによりあのだだっ広い会場の2万人はいたであろう観客の〈想い〉を1人で受け止めるだけのオーラがクリス・マーティンから漂っていた。ステージ中を駆け回りながら歌う、その一挙手一投足が美しく、神々しい。なんだかこんなこと書くとヤバイ人みたいだけど、そんな気持ちすら飲み込まれるほどのステージだった。最後の曲“Fix You”では歌詞を替えて大トリのフー・ファイターズに捧げて歌っていた。ビッグ・バンドとしてここまで成長しても、奢ることのない姿が多くの人の印象に残ったはず。(*ヤング係長)
■忌野清志郎&NICE MIDDLE with NEW BLUE DAY HORNS

© Masanori Naruse
三日間フェスに参加した人にとってフジロックの思い出といえば、記憶の習性としてやはり〈最終日の思い出〉というのが残りそうですが、それでも初日の〈WHITE STAGE〉、忌野清志郎のステージが一番印象に残っている、ベスト・アクトだった、という人も多いかもしれません。冒頭、タキシードのプレゼンターが登場し、ジェイムス・ブラウンのショウの如き「今宵、GODが舞い降りる!!!」という煽りに導かれ、ピンクのスパンコールのマントに身を包んで忌野清志郎が登場。序盤から“トランジスタ・ラジオ”、ビーチ・ボーイズもファースト・アルバムで取り上げた“SUMMERTIME BLUES”で熟年フジロッカーを微笑ませ、新曲“愛を謳おう”、名曲“スローバラード”も惜し気なく披露。三宅伸治のギターソロ、梅津和時らNEW BLUE DAY HORNの金管ソロまで、イントロから間奏に到る全ての瞬間が文字通りの鉄壁で、余談を許さないエンターテインメント・ショウが続きます。
MCでは35年間のキャリアを振り返り「21世紀になっても、戦争はちっとも無くならないじゃないか」と〈ロックが世界を平和にする〉神秘を語り若年フジロッカーが静まった瞬間(ややヒキ気味だったかもしれないです)、一転して「愛し合ってるかいー!?」と呼びかける。〈WHITE STAGE〉中がそれに応えると会場は大熱狂のコール&レスポンス空間に。以降、アンコールでは近作『KING』より“Baby 何もかも”、そして最後の最後に名曲“雨上がりの夜空に”で大合唱。デビュー35周年にして尚も高みを目指してパフォーマンスをする彼に見入ってしまう二時間あまりのステージ。出囃子から三宅伸治が呼び掛ける〈GOD〉コールまで、いつも通りのショウであったのかもしれないけれど、フジの常連ファン、新たに忌野清志郎に触れたファンが一体となって熱狂した瞬間でした。MCでヒロシのパロディー「キヨシです……」なんてネタを披露するあたりも、神のなせる業かもしれない!?(*原田 亮)
■DJ マッドリブ、TAKKYU ISHINO
仮眠を取るつもりが大幅な寝坊をしでかしつつ、深夜の〈レッド・マーキー〉へ。残念ながらクラウン・シティ・ロッカーズは終演間際で、次なる登場はマッドリブ。冒頭、Rhodesプレイヤー(アンプ・フィドラーとの噂)を従えてのヘタウマ・ドラム独演会でフロアを煙に巻きつつ、DJ開始。ルーツ・レゲエからマイケルまでを横断する奔放なプレイは、各種発表されているミックスCDの総決算的な内容。その〈ユルさ〉の中から立ち昇るマッドリブ印のグルーヴに、がっつり踊らされた次第です。サイケなデコレーションが楽しい〈ボード・ウォーク〉を抜け、一路〈オレンジ・コート〉へ向かうとそこは人、人、人で埋め尽くされた深夜のレイヴ会場〈オールナイト・フジ〉であります。ブースに立つ石野卓球のプレイは、ピークタイムを過ぎ、フィナーレへ向けて徐々にクールダウン……といった頃合い。とは言え、インナー・シティやクリスタル・ウォーターズなどのハウス・クラシックが次々と投入され、休む暇を与えてくれません。結局ラストまでフロアの沸点は下がることなく、卓球のプレイは終了。筆者の初日スケジュールも無事消化。おやすみなさい。(*湘南乃パンダ)
▼文中に登場したアーティストの作品を紹介