まずお詫びする。セカンド・アルバム『The Further Adventures Of Lord Quas』のリリースを受けて、当初は甲高い珍妙な声を操る異星人ラッパー=カジモトにインタヴューするはずだったのだけど、実際にインタヴュー現場にやってきたのはアルバムの全面プロデュースとラップを務めた彼、マッドリブ。残念ながら、どうやらカジモトはインタヴュー嫌いらしくて。
さて、マッドリブといえば、自身のオルター・エゴ(別人格)を駆使したイェスタデイズ・ニュー・クインテット(以下YNQ)などのプロジェクトや他アーティストとのユニオン(MFドゥームとのマッドヴィレイン、J・ディラとのジェイリブ)などで、傑出したクォリティーの作品群をリリースしているトラックメイカーである。彼が生み出す音楽は常にリスナーの想像の枠を飛び越えていく……。まさに未曾有(なんて言葉は胡散臭いけれど)の創造力を持つアーティストなのだ。その異才っぷりを勝手ながら〈アヴァンギャルドな風雲児〉という言葉で表現させていただこう。そんなマッドリブがカジモトと組んずほぐれつ作り上げた今作では、聴き進めていくうちに眼鏡が曇ってくるようなスモーキーさ、ムクムクと膨満した低音などは変わらぬ独自色として残しながらも、目まぐるしいほどに多彩な音模様が展開されている。……なんて、ウダウダ講釈を垂れ流していても仕方ない! まず訊くべきは、マッドリブとカジモトの出会いについてだ。
「ある夜、魔法のキノコを食ってブッ飛んでた時にフッとカジモトが現れたんだ。ちょうどルートパックのアルバムを制作してる最中だったかな……」。
つまりはソロ活動を視野に入れていた時に偶然カジモトと出会ったわけか。ふむふむ。にしても、前作『The Unseen』をリリースしてから早5年。なぜこの素晴らしきプロジェクトを長期間眠らせていたのだろう?
「なぜかって? いろいろやってたからだよ。結局、自分を強制することはできないからな。オレは気分が乗った時にだけ音楽を作るんだ」。
そして、気分が乗った今作で聴けるトラック群は、前作よりも格段にパワーアップしているのだ。使われるネタのヴァラエティーが豊富になったことで、音がよりディープに、よりおもしろく、よりシャープかつ鮮烈に響いてくる。とはいえ、今作に臨む両者のアティテュードに大した変化はなかったようで。
「カジモトの様子は以前とちっとも変わりなかったなあ。ウィードをふかしたり、人をイジメたり、とにかく悪さばっかりしてるんだ。オレも変わってない。レコードを買ったり、カジモトが事件に巻き込まれないように守ったり。でも、このアルバムには黙示録的な雰囲気が漂ってるだろ? これは人類が滅亡する前に知っておくべき冒険譚だ」。
そんなマッドリブからは、穴モグラのように地下に潜ってシコシコと楽曲作りに勤しんでいる姿が容易に想像できるが、一方でプライヴェートが見えない人でもある。
「普段の生活? ウィードを嗜んだり、ジャズ・ミュージシャンの伝記を読んだり、サン・ラーについて勉強したり。大人しくしてるさ」。
なんだか興味が湧いてきたので、もっとプライヴェートな部分にも触れてみよう。ところで、キミの宝物は?
「娘だ。娘を愛してる。彼女のためならなんでもする。人生でもっとも大切な存在だ。だから父親であることが音楽にも自然と影響してると思うよ」。
意外な子煩悩気質も判明したところで今後の予定を訊くと、「もうすぐ登場するMED(メダフォア)のアルバムをチェックしてくれ。プロダクションのほとんどをオレがやったよ。あと、カジモトも参加するらしいパーシーPのアルバムももうすぐリリースされる。ジェイリブとマッドヴィレインの新作もあるし、カジモトの3作目ももう出来上がってるんだ。YNQのサイド・プロジェクトもあるしな。YNQ名義でストリングスを採り入れたアルバムも作りたいんだ」とのこと。今度はヴァイオリンでも始める気か?
そして最後に投げかけた〈いまの夢は?〉という質問に、「音楽をやって食ってくこと。何年経っても聴いてもらえるレコードを作ること。娘を幸せにすること。全部あたりまえのことだ」と答えたマッドリブ。これからも彼がその想像を具現化した作品群で聴き手を魅了していくのは間違いないが、何よりもいまは〈カジモトのさらなる冒険譚〉と銘打たれたこの音楽を全身で感じてもらいたい。このアルバムは、マッドリブが自身の創造性を深く探究した証に他ならないのだ。
▼マッドリブがプロデュース/客演した近作を一部紹介。