タイと日本、両国先端文化のごった煮イベントSOI-Musicの模様を完全レポート
さて、東京で10月29日から31日までの3日間に渡って行われた〈SOI Music Festival 2004〉。その中からライブ中心だった2日目・3日目をレポートしていきたい。それぞれ、〈エレクトロ〉と〈ロック〉というコンセプトに沿って繰り広げられる日本とタイの音楽交流……いや、もうこれは現在の世界の最前線? 最初から最後まで目が離せなかったSOI-Musicを完全レポート! ビック・サプライズ・ゲストもあったでよ! (各アーティストの詳細はこちら、バンコクでのライヴ・レポートはこちらでどうぞ!)
10月30日(土) 〈SOI-Electro night〉@青山CAY
初日の六本木・SuperDeluxeでの〈SOI-VISUAL night〉から会場を移し、ライブ主体のイベント初日、タイのNo.1ビール、シンハービールを飲みながら迎えた一組目はスタイリッシュ・ナンセンス(Stylish Nonsense)。エレクトロ~テクノポップ好きなら曲名だけでニヤリとせずにいられない“ Atari”や、“yie are kunfu nintendo”など、ブレイクビーツに電子音の絡む音像はポップで好印象。タイ人の考えるカンフー、ニンテンドーは、ヨーロッパ人のソレよりもストレートに日本人の脳にジャックインしてくる。
Cliquetpar photo by カネコマサアキ(以下全て)
続いてのクリケットパール(Cliquetpar)は、全日通してのベストアクト!? 牧歌的なギターやシンセリフに支えられて炸裂する人力ドラムンベースには衝撃! の一言。エイフェックス・ツインがさらにドリーミーになったような彼のアルバムはまだタイでもリリースされていないということで、会場ではガッツリCD-Rに焼かれたアルバムを本人が手売りしていました……。オフィシャルサイトにて試聴ができるので必聴です!
Futon
三組目はイギー・ポップの“I wanna be your dog”のカバーを世界各国のランキングに叩き込み、現地でも最注目アーティスト、フトン(Futon)。タイ・英・日の3カ国からなるメンバーが在籍する多国籍バンドだ。初っ端からキラーチューン“I wanna be your dog”で場内を沸かせると、メンバー全員が客を煽る煽る。エレクトロクラッシュ・バンドというよりは、ハイパー・ニューウェイヴと言いたくなるような新しい中に懐かしさも感じさせる音にプラスして、プロディジー並の激しく吹っ切れたライヴアクトは、日本人の度肝を抜くのに十分過ぎ!
そしてトリに登場するのは当bounce.comの連載「CDは株券ではない」でお馴染みの菊地成孔氏率いるSpank Happy。菊地氏が「Futonサイコー!」と連呼しながら登場! ……しかし、ボーカルがなんだかよく知らない「性別・国籍・経歴は明かせません!(菊地氏談)」な、綺麗なお姉さん(?)。「ドミニクに逃げられました(同氏)」とのことで、急遽ピンチヒッターを起用しての参戦に。アンコールではボーカルが入る前の幻の新曲2曲を披露し、ある意味事件とも言えるライブを敢行。「別れを怖れていては、出会いはないのです(同氏)」と語るSpank Happyの、明日はどっちだ!?
10月31日(日)〈SOI-Rock night〉@青山CAY
SOI-Music、最終日はロック・ナイト。ビッグ・サプライズもアリで、日本におけるタイの〈熱い〉三日間を見事に締めくくってくれた。2日目のトップバッター、ベア・ガーデン(Bear garden)は、キュートなボーカルJuneちゃんが中心のギターポップ・バンド。まるでスウェディッシュポップとも形容したくなる爽やかな音像だが、スウェーデン発、タイを経由のアジア大陸横断シルクロードサウンドは、暖かな南国の風も感じさせてくれたのでした。
Death of a sales man
お次はデス・オブ・ア・セールスマン(Death of a sales man)。コワモテのバンド名と裏腹に登場したのはムエタイの存在を完全否定しそうな弱弱しいメンバーたち。いつ咳き込むのか? と不安になりながら演奏を待っているとその体からどうしてこんな音が? と逆に心配になるほどのFatなサウンド。シューゲイザー~レディオヘッドを連想させる暗めの轟音が会場中を包み込んでいました。
続いては、浅野忠信主演で話題をさらったタイ映画「地球で最後のふたり」のサントラを手がけたフォトスティッカー・マシーン(The Photosticker machine)。映画で聴くことのできたボサノバやサウダージなものがメインと思いきや、超絶テクのフュージョン・プログレッシブなジャムを披露。確かなテクニックが紡ぎだすセッション風ステージングは圧巻の一言。
ショーン・レノン
ここで、SOI-Musicのサイト上のみで告知されていたビッグ・サプライズ・ゲストの登場! ステージに上がったのはなんと、タイの伝説的バンドモダン・ドッグ(Modern Dog)のメンバーPODに、Cibo Mattoのホンダユカ。そして、〈あの〉ショーン・レノンが! 客席には、9月にバンコクで行われた〈SOI-Music in Bangkok〉に出演したCorneliusの小山田圭吾氏も目視確認。VJにも「コーネリアスが書いています」とリアルタイムの落書きを楽しめるという一幕も。
ショーン・レノンの登場というあまりのサービス過剰っぷりに唖然としている間にライヴは終了。「夢だったのかも……」という気分でなおも口を開けながら会場を見つめていると、ステージにはこれまた当bounce.comの連載「Buffalo Daughterの BD-DVD」が惜しまれながら最終回を迎えたばかりのBuffalo Daughterが登場。実はBuffalo Daughterのライブは四年ぶりに体験したのだけれど、まさかここまで素晴らしいとは! 日本人もタイ人も関係なく皆が両手を挙げ、歓声をあげる(含む筆者)。ライブ終了後、隣にいたタイ人の男性とBuffalo Daughterの素晴らしさについてカタコトの英語で熱く話しあってしまった。
この連載、「Enter the A-POP~アジアン・ポップスへの道」の第一回目で、エスニックやそれに類する言葉でアジアン・ポップスを語るのはもう間違いで、いまや質・量ともに十分に刺激的な状況になっていると書いた。しかし、いまだにアジアン・ポップスといえば一種のエキゾティズムの範疇で語られ続けているし、音楽イベントもその国のお国柄を理解するための副読本・サブテキストの地位から抜け出しているとは言いにくいままだ。
そんな中、SOI-Musicのような、両国の先鋭的なアーティストを唐突に結びつけ、国単位というよりも興味の方向性を軸に展開してしまう音楽イベントは本当に貴重だ。イベント終了後、タイから参加したオーディエンスと話しているときに、彼が言った一言。「このイベントはサイコーだね! 日本にはこんなイベントがたくさんあるの?」という質問に、「いや、全然ないよ」と答えたとき、現在のシーンの不幸とともに、SOI-Musicの、他に類を見ない面白さと価値を再認識せざるを得なかった。
ちょうど、今手元にあるSOI-Musicのフライヤーには「Kick the Exoticism, Hug the Difference」という文字が躍っている。――エキソティズムを蹴っ飛ばして、違いを抱きしめる――この連載を通して言いたいこともまさにフライヤーに書かれているこの台詞に集約されているといってもいい。普段、欧米と日本の音楽しかきかないリスナー。それも更に刺激を求めるヘビーリスナーにこそSOI-Musicを体験してみるべきだ、と感じたのは間違いない。