インド歌謡をネタ使いした“Addictive”で2年前に登場したトゥルース・ハーツ。ドクター・ドレーのアフターマスからリリースされたデビュー・アルバム『Truthfully Speaking』も非常に充実した内容だった。しかし、“Addictive”におけるサンプリングの著作権問題のせいもあって、どこか興味本位的な聴き方をされてしまったのは残念だった……。とはいえ、今回、彼女がドレーのもとを離れることになったのは、その問題が原因ではないという。
「ドクター・ドレー本人は関係ないし、彼に悪い感情は一切ないわ。ドレーからは多くのことを学んだし、彼といっしょにいることでたくさんの才能のある人たちと仕事ができた。ドレーは例えば相手がアッシャーだろうと、気が乗らなかったら〈ノー〉と答える人。彼とはまた仕事したいと思っているし、実際に話もしているのよ」。
で、新作『Ready Now』のリリース元となったのは、ラファエル・サディークが主宰するインディー・レーベル、プーキーだ。
「ドレーと組む前からラファエルの音楽は好きだったし、一度組みたいと思っていた。彼は飛び抜けた才能の持ち主。彼の音楽が持つ何かが私と共鳴するのよ。R&Bとブルースを聴いて育った私とは好きな音楽も似ているし、共通点は多いと思う。ドレー・ワールドから飛び出して、次の天才的なプロデューサーと組むのは理に適っているし、適切なステップよね」。
新作の全体的な印象は、インディー精神を重んじるプーキーからのリリースということもあってか、前作以上に彼女の意志が反映された作品のように感じられる。
「実際、メジャーもインディーも端で見ているほどは変わらないのよ。ドレーと組んでいた時も、それなりにクリエイティヴ・コントロールはあったしね。いつも人が大勢いてパーティーみたいだったわ。でも、それと比べるとラファエルとの仕事はピースフルとも、ちょっと退屈とも言える感じね。ひとりきりで作業する時間が多くて……そういう意味で、もっと私が出ているんだと思うわ」。
いちばんのお気に入りは彼女自身も制作に関与した“U”だそうだが、ラファエルが手掛けた“Lifetime”も忘れ難い一曲のよう。
「女性から女性への曲、それも現代風にエッジの利いた内容……というコンセプトを私が出したら、驚いたことにラファエルが詞を書きはじめたの」。
それでもアルバムではラファエル個人とはベッタリ組まず、ラファエル人脈のケルヴィン・ウーテンほか、西海岸のシーンを支えるバトルキャットやブライアン“Bダブ”ウィルソンらを配して、楽曲に幅を持たせている。
「たぶんラファエルはもっと私が自由に出られるように配慮してくれたんじゃないかな。ファースト・アルバムでは結果的にドレーの影に私が隠れてしまった気がしたから」。
ただ、前回の“Addictive”(制作はDJクイック)での、あのエスニックな感じは、ある意味、彼女のトレードマークになってしまったようで、今回も、旧知であるアロンゾ・ジャクソンの制作曲やルーンの客演曲などは、実に“Addictive”の続編的な印象を受けなくもない。
「私のカラーとして他のカルチャーのテイストを入れるというのは確かにあるから、そこを反映しているんだと思う。あのテのサンプリングはまだ流行っているしね。実は、〈Marigold An Adventure In India〉という映画に出演して、サントラにも曲を提供したんだけど、“Addictive”のヒットから起用されたみたいだから、あの曲にはやっぱり感謝しないといけないのかもね(笑)」。
今後は演技のほうも頑張りたいという彼女。かつてはオペラやクラシックを学んでいたこともあるだけに、また目新しいアプローチでの楽曲も期待できそうだ。
「挑戦したいのはクラシックのフィーリングをうまくR&Bに取り込むことかな。オペラを採り入れたらおもしろいし、品がいいでしょ。また新しいレヴェルにR&Bを持っていけるかもしれないし」。
すでにスラム・ヴィレッジやスカーフェイス、D12と仕事をする話も出ているという彼女。今回のラファエルも含め、志の高いシンガーには、常に実のあるコラボレートが用意されるものなのだ。