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第4回 ─ 年末特別企画! 菊地成孔が2003年の音楽界を振り返る

第4回 ─ 年末特別企画! 菊地成孔が2003年の音楽界を振り返る(3)

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2003/12/26   12:00
更新
2003/12/26   16:46
テキスト
文/ヤング係長

――チャートでは、175Rが18位にランク・インしています。若い子たちの間では、こういった〈青春パンク〉と呼ばれているバンドが人気だったりしますが、青春はジェンダーの転倒とは関係ないのでしょうか?

  青春はもっと下部構造の話だからさ。14歳から16歳くらいにかけて体に変化があって、性欲が出てきたけど社会的には全く無力で、だけど自我の独立がある。という生殺しのような状況なわけじゃない? そういうエネルギーが発散されて泣いたり喧嘩したりっていうのは変わらないんだよ。それが失われるような国家が出てきたら終わりでしょ(笑)。

――不景気が長引いていたり戦争が起こったりという時代で、不安感が根底にあるわけじゃないですか。チャート1位の“世界に一つだけの花”、11位の中島みゆき“地上の星”なんかもそれに当たると思うんですけど、応援ソングのようなものが支持されていますよね。

  〈がんばれソング〉は、90年代にもブームはあったと思うし、そもそもヒットチャートってのはどれだけ国民を応援したか? という力比べなわけでしょ。「ナンバー・ワンじゃなくて、オンリー・ワンなんだ」って、そりゃあ元気も出るよ(笑)、俺はさ、90年代最大の流行語は「大丈夫」だと思っているんだ。例えば、電話したとき、相手に「今大丈夫ですか?」って聞くでしょ? レストランに行けば「お水のお代わりいかがですか?」とか「料理はお口に召しましたか?」っていうのが全部「大丈夫ですか?」になっている。そして、それが違和感なく定着してしまっている。相当大丈夫じゃないんだよ、この国は(笑)。あと一押ししたらとんでもないことになるっていう危機感ね。それを、「大丈夫」という言葉を日常生活の中に張り巡らすことによってブロックしているわけ。がんばれソングの中にはおそらく、不安を吹き飛ばす内容の歌詞だったり、実際に「大丈夫」って言っている歌詞も多いでしょう。聴いてないからわかんないけど(笑)。

不安の吹き飛ばし方にもいろいろある。レイヴみたいに大音量で音楽を鳴らしたり、趣味のいいものを観察したりね。でも、そんな時間は長続きはしないんだ。〈大音量の音楽〉も〈趣味のいいもの〉もない時間の中でも不安はない。というタフさを持ったときに人間の自我は強くなるのかもしれない。でも、そんな時はこないんだよ。高度経済成長期だって、あれ戦争の後で、みんな大丈夫じゃなかったんだからさ(笑)。焼け野原から、金属のタワーだらけの街を作るっていうのはまさしくレイヴなわけじゃない、復興レイヴ(笑)。

  それが終わっちゃってさ、祭りが終わっちゃったんだよね。そういう意味ではね、今年のシングル・チャートの傾向は、渋谷系とかさ、芸能界以外の非歌謡ビジネスが完全に撤退してしまっているというのが大きい。ということは、ビッグ・ビジネスが動いているんだよね。つまり、音楽ジャンルとしてではない〈パンクなもの〉がないんだ。Dragon Ashはかなりいいところまで行ったと思うんだけど、今年はシングル・チャート30位内からは抜けちゃってるしね。

――〈パンクなもの〉を支持していた人たちはどこに行ったんでしょうか?

渋谷系のファンだった人、フィッシュマンズのファンだった人、Dragon Ashのファンだった人、キングギドラのファンだった人。この人たちに通じているのは、全部日本の文化がそれによって変わると思っていたということだよね。

でも、元に戻った。変わらなかったんだよ。だから、彼らは全員挫折しているわけ。相当な人数の挫折した人々が、この国のレコード屋では何を買ったらいいのか悩んでいるはずだよ。彼らが抱いていた、「この国の文化は変わって、彼らにとって素晴らしいものだけが残るだろう」。極端に言うと、「日本が外国になる。そうならなくても、いい日本がやってくるはずだ」と考えたときに彼らは理想主義者だったし、変革主義者だったし、オプティミストだったんだよね。そういう人たちの夢は砕けた。具体的に言っちゃえば、9・11以降砕けた。夢が砕けた人たちの行き場はどこにあるのか? っていうのが2003年の総括といえば総括だからさ。しかし、こうやって振り返ると、90年代は特筆すべき時代だったのかもしれないね。

――では、そろそろ今年の総括をお願いします。

だから、今のチャートに足りないものは外国だね。チャート上位はみんな日本、あるいは東京のことを歌っているわけだし。でも外国は、90年代に消費してしまっているし、9・11以降の態度が保留になってるから、元に戻るには時間がかかるでしょう。だから、違った形の外国が出てくることはあるかもね。ハワイのダークサイドだったり、ゴスなところのヨーロッパだったり、フィフティーズのアメリカなんだけど凄いヒールでデヴィッド・リンチみたいなものだったりとかね。

――なんか、どれも病んでいるような気がするのですが……。

そう、全部病んでるよ。90年代に消費された欧米文化はまるで病んでいないディズニーランドみたいなものだったわけだから。今、ファッション・ショーを見ると、もうゴスゴスなのよ(笑)。歴史的な病に対して個人の病でアゲインストするという、よくある歴史がとるパターンに文化がなりつつあるんだ。もし、この連載が好評で来年まで続いて、2004年の総括をしたときに、ひょっとしたらチャートの中にディズニー的な外国が入ってきているかもしれない。でも、2003年は楽しい外国はひとまず終わり。それよりも目の前の日本、ということになっているよね。「ファンシーとヤンキーは日本の心だ」という、故・ナンシー関の明言通り。少なくとも2003年はそうだったと。記録というのは良いね(笑)。

※インタビュー中のシングル・チャートは、オリコン株式会社から発売された「Best of WO」のデータを使用しました。

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