今回の「CDは株券ではない~菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想」は、SPANK HAPPY『Vendôme, la sick KAISEKI』をリリースしたばかりの菊地成孔が、2003年のシングル・チャート30位を見ながら今年1年の日本音楽界はどういう状況だったのかを振り返る年末特別企画。ますます深刻化する〈CD不況〉を打ち破るカギはここにある。かも?
――まず、今年のシングル・チャートを見てもらえますか。一番売れたシングルがSMAP“世界に一つだけの花”で、これが200万枚を超えていて、2位以降は福山雅治、宇多田ヒカル、森山直太朗、RUIと続くんですけど、他のシングルでミリオンを超えているものがないんですよ。
うわー、すごい(笑)。2位以下が100万枚行ってないんだ。えらい世の中になったね。やっぱり株券にしないとだめだ(笑)。アルバムのほうがミリオンが多いんでしょ?
――そうですね。アルバムはCHEMISTRY、浜崎あゆみ、B'z、桑田佳祐、BoAなど、100万枚を超えているものが合計で7枚あります。
これを見てもわかるのが、シングルCDは何年か前と比べると圧倒的に売れていないということだよね。じゃあ、なぜシングルが売れないのか、それを考えてみよう。
――効率が悪いからでしょうか? アルバムに比べると、値段の割に収録曲が少ないとか。
誰でも指摘することだけど、俺ぐらいの世代の人間が若かった、つまり邦楽は全部歌謡曲だった時代には、シングルにはシングルにしかないアウラ(オーラ)があったんだけど、今のシングルCDにはそのアウラがないわけでさ。極端な話をすれば、昔はアルバムを買っても、聴きたい曲が西城秀樹の“ヤングマン”しかないという時代があった。今は時代がすっかり変わっちゃって、綾小路きみまろですらアルバムで力を発揮する時代だからね(笑)。
――確かに、綾小路きみまろのアルバムはチャート13位に入っています。
この人のキャラからいけば、昔はシングルが一曲売れるようなタイプだったんだよ。バラクーダの“日本全国酒飲み音頭”とかさ(笑)。EAST END×YURIの“DA.YO.NE”ってあったでしょ? あそこまで続いている。今だとはなわの“佐賀県”とかね。でも、そういうものがチャート上位に上がってこれなくなってきてるよね。〈面白い〉という理由だけで、それがどういうアーティストかも知らないのにシングルが大ヒットを飛ばす。そういう現象が古き良き日本にはあった、でも今はそうじゃなくなってるよね。綾小路きみまろの例に顕著なように(笑)。
――シングルの売上が下がっていることと直接的な関係があるのかどうかわからないのですが、去年くらいから音楽DVDの売上が上がってきているんですよ。ハロー!プロジェクト関連のアイテムなんかは結構DVDでリリースされているみたいで。
あのね、モーニング娘。に関しては、ここで我々が軽率なことを口にするわけにはいかないんだ。モーヲタという消費メディアの人たちが存在していて、彼らは偏執的にモーニング娘。周辺の情報を集めるわけだ。だから、うっかりしたことは口にできないんだよ。でも、彼女たちのことを良く知らない人間の一人として言わせてもらえば(笑)、俺ぐらいの世代にとって、彼女たちの持つ〈娯楽性〉はクレイジーキャッツを思い起こさせるんだ。
――女の子が持つ魅力というのは……。
そりゃあるさ、もちろん。そりゃ矢口は可愛いさ(笑)。でもね、アイドル集団ということで、おニャン子クラブの系譜で彼女たちを見たりするのは間違っている。モーニング娘。はエンターテイメントとして巨大すぎるんだ。つまり、国民的娯楽に耐えうるものなんだよね。
彼女たちは「めちゃイケ」に出るでしょ? あの番組は毎回映画みたいな作りになっているんだけど、あれを見ていると、クレイジーキャッツが主演で、半年に一度やっていた映画とか、そういうものの記憶に近いんだよ。全員に魅力があって全員が面白い。全員にちゃんと見せ場があって、非常に有能なタレント集団による良くできた娯楽である。日本人はそういうものを求めていたわけ、70年代までは。娘。は、クレージーキャッツの記憶を刺激するんだよね。俺にとって(笑)。
まだ1枚も見てないからわからないんだけど、おそらくこのDVDもただのアイドルのイメージビデオではなく、きっと素晴らしい充実したプログラムになってると俺は思うわけ。それに、DVDってのは、そもそもヲタクの為のメディアだからさ。ヲタじゃない人にとって、あれは単に入り組んでて面倒くさい物なんだから(笑)。だから、娘。のそれなんて、売れてしかるべき最大の物なんじゃないの? それで、こういうDVDの音楽商売はいつごろから始まったの?
――去年くらいから本格的に波に乗り出した感じではないかと。
まだ未開の地だな。黎明期だね。チャートに話を戻そうか。まず、この(当日編集部が用意した)シングル・チャート30位までの曲の中に、知ってる曲が何曲あるか数えてみよう。そらで歌える曲ね。編集部はどのくらい知ってるの?
――えーと、……7曲ですね(笑)。
俺は……4曲だな。編集部、連載陣含めてチャート30位までにランクインしている曲をほとんど知らないという状態なわけだ(笑)。これもよく言われるのが、山口百恵の“プレイバック Part 2”は70万枚しか売れてなかったのに、国民全員が歌えた。という話で、この状況の推移を完全に間違いなく説明できる奴は居ないと思うけど、とにかく様々な理由によってそうなったと。