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第4回 ─ 年末特別企画! 菊地成孔が2003年の音楽界を振り返る

第4回 ─ 年末特別企画! 菊地成孔が2003年の音楽界を振り返る(2)

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2003/12/26   12:00
更新
2003/12/26   16:46
テキスト
文/ヤング係長

――とりあえず(笑)、去年の元ちとせがチャート1位をとったあたりから、奄美や沖縄のアーティストが続々とチャートに入ってきているようなんですけど。

  すっかり沖縄が〈癒し〉、あるいはそれ以上の、霊的なヒエラルヒーつうかな。なんだかそういうことになってしまったね。沖縄は、たとえばイタリアにおけるバチカン市国みたいなもので、日本の中にあるけど、まだわが国であると思われていないわけだ。いい意味でだよ。沖縄はポリネシアであって、一つの秘境、魔境なわけだよ。

例えば、元ちとせが東北出身だったら困るわけじゃない(笑)。でも、宇多田ヒカルはニューヨーク出身じゃなくてもいいわけでしょ? そう考えると、沖縄出身のアーティストの多くの歌は、アメリカでいうところのタウン・ミュージックなわけだ。生まれた土地がアイデンティティになりえる音楽、という意味で。「オラ東京さ行くだ~」っていうのが東北のタウン・ミュージックであるという極端な例を除けば(笑)、チャート・アクションを起こせる日本のタウン・ミュージックは沖縄からしか生まれないんじゃないかな。

――オレンジ・レンジやHY、モンゴル800なんかは、沖縄という土地の持つ歴史の流れを汲んだ音楽、という感じがしないんですけど、やっぱり沖縄と関係はあるんでしょうか?

  そりゃ関係あるよ。米軍基地があるような街に育ったのに、彼らの視線には米軍基地があまり入ってないんだ。オレンジ・レンジがシングルのイントロで米兵のランニング・トレーニングのかけ声を使っていたでしょ。あんなに軽く米軍を扱えるのも、それを証明しているんだと思う。ところが、実際のところは外側では今、米軍基地をどうするのか? という大きな問題が渦巻いていて、それが彼らの大胆不敵さとか無邪気さに外圧をかけはじめている。という複雑に倒錯した事情がある。アメリカ、沖縄、米軍、日本を巡る問題が今転換期にきているからね。20年前だったら、「国家は親米、沖縄は反米」でよかった。でも今、国家は親米か反米かで悩んでいるし、沖縄の人間はもう慣れちゃって、アメリカを異物として捉えることができなくなっている。そういう逆転した倒錯が起こっているんだよね。そんな中で出てくる〈無邪気な若い沖縄ロック〉っていうのは、なにか歪んだ形に見えざるを得ないと俺は感じるけどね。

――なるほど。CRYSTAL KAYやmelody.など、バイリンガルの女性R&Bシンガーっていうのも最近のチャートに良く顔を出していますよね。

この連載の3回目でも書いたけど、ニュー・ライト・エキゾチックね。BoAもそうだよね。ちょっと韓国の顔をしているからいい。そういうエキゾチックな顔立ちでバイリンガルの女性を支持する傾向っていうのは、アグネス・チャン、テレサ・テン、アン・ルイスといったオールド・ハード・エキゾチックから脈々と続いているね。

  日本の女の子の中にあるキャリア志向、スキル志向には、なぜか英語が入っているんだよ(笑)。ここがとっても重要なんだけど、英語が話せるととにかく凄く偉いわけ。バイリンガルであることが凄い価値になってくるんだ。70年代にもバイリンガルの人はいた。でも、彼女たちは日本語がなまっているということで劣等と思われていた。でも今それは劣等を意味しないでしょう。これほど英語が喋れることを若い女の子たちが尊敬する時代はないと思う。そういったスキル志向、上昇志向みたいな、言ってみれば前向きな考えを持つ女の子たちがセクシー、キュート、ストロング、ビクトリー、ファイトなほうに流れてR&Bに傾倒していくというのは全く不思議ではないね。

――では、バイリンガルでR&B志向な女の子が今のチャートに入ってくるというのは必然であると?

ジェンダーが逆転したんだよ。女の子は無能で、踊りが稚拙で、インタビューでも訥弁だけど、声が良くてとっても可愛い。男はスキルがあって、なんでもできちゃう。そういうものがオールド・ジェンダリックだとしたら、これはもう完全に逆転した。

  今、アイドルっていのは可愛いだけじゃなくて、いかにスキルを持っているのか、というのが重要になっている。20世紀末にコギャルっていたでしょ? ジェンダーの転倒っていうのは倒錯だからさ、あれは倒錯しかけの過程で出てきた病的な症状だよね。今見てもあれは病気でしょ(笑)。今は女の子たちがいろいろな仕事をしてみたいと思っている。可能性を試したいと思っている。スキルを上げようと思っている。

で、男の子は批評をやり続け、批評によってリヴィドーを昇華させようとするあまりネットに引きこもっちゃってるわけだ(笑)。その傾向がチャートにも影響しているね。2003年現在において、男のアイドルこそがアイドルだよ(笑)。