グロリア・エステファンとセリア・クルースが新作を発売。ラテン・ミュージックの新旧歌姫のマイアミへの想いとは……?
GLORIA TALKS ABOUT MIAMI 新作『Unwrapped』を発表したグロリア・エステファンが語るマイアミへの想い

「マイアミはラテン・ポップの中心地なので、ラジオ局もキューバ、コロンビア、ブラジル、プエルトリコなどなど、かける音楽によって分かれているんだけど、私の音楽はどの局でもかかるんです。きっとラテン音楽を象徴するものとして捉えられているんでしょう」。
2年前、ラテン音楽色濃厚なスペイン語アルバム『Alma Caribena -Caribbean Soul』を発表した際、グロリア・エステファンは僕にこう語ってくれた。その言葉には、先頃亡くなったセリア・クルースの衣鉢を継ぐラテン・ポップの女王として、またマイアミ・シンジケートの首領として、多くのラテン系若手ミュージシャンたちをバックアップしてきた実力者の自負が滲んでいた。
中南米諸国を中心にした汎アメリカ的クロスカルチャーの一大拠点、マイアミ。グロリアは、そこからわずか100マイルほど先に浮かぶキューバで革命が起きた59年、わずか1歳数か月で両親と共に移民としてマイアミに上陸した。以来キューバ系アメリカ市民として今日まで生きてきたわけだが、彼女が言うとおり、これまでの作品、特に『Mi Tierra』や『Abriendo Puertas』『Alma Caribena -Caribbean Soul』といったスペイン語で歌われたアルバムには、故郷キューバの伝統音楽のみならず、コロンビアやヴェネズエラ、メキシコ、ブラジルといった中南米各地の音楽スタイルが綜合/調和してきた。
「マイアミはさまざまな文化の人たちが集っている場所ですし、最近ではキューバ系に限らず、もっともっと国際色豊かなコミュニティーの複合体となっています。そういう国際色豊かな部分が、私の音楽、そして私自身にも多大なる影響を及ぼしていると思います」。
2年ぶりに発表したニュー・アルバム『Unwrapped』のリリースに際して、今度はこう語ってくれたグロリア。この新作は英語で歌われ、メロディーもアメリカン・ポップス的なのだが、しかしラテン系の伝統楽器(チャランゴやトレス、ケーナ、カホン、カバキーニョ、パンデイロほか)が大幅に導入され、アレンジ面ではヴェネズエラやプエルトリコなどの音楽のリズムを援用するなど、随所で汎ラテン的意匠が施されている。つまり、キューバ/ラテンとアメリカのどちらか一方に引っ張られる、あるいは引き裂かれることなく、そのどちらでもあるマイアミ育ちの自分というものを、これまでとは違うスタイルで極めて自然に表現できた初のアルバムという言い方もできるだろう。〈覆いのない、剥き出しの〉というアルバム・タイトルにも、マイアミっ子としての自分の生身の姿を晒そうという意志が滲んでいる。そんなグロリアに「もしあなたがマイアミ市長だったら?」と訊くと……。
「経済的援助を必要としているさまざまなエスニック・コミュニティーに注意を払うでしょうね。それと子供たち。途中でうまくいかなくなってしまうことがある養子縁組や、孤児などの児童福祉にも目を向けたいです」。
政治/社会問題も含めて、マイアミに正面から向き合い、愛してきた彼女ならではの答えである。そういえば、2年前、キューバからひとり生きてマイアミに漂着したゴンサーレス少年を巡る国際的大論争の時も、グロリアはマスコミで積極的に論陣を張っていたな。
▼グロリア・エステファンがこれまでに発表してきた作品の一部を紹介