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第8回 ─ 音楽配信に起こった革命、Appleの「iTunes Music Store」

第8回 ─ 音楽配信に起こった革命、Appleの「iTunes Music Store」(3)

連載
デジタルミュージックガイド
公開
2003/05/22   13:00
更新
2003/05/29   21:01
テキスト
文/四本 淑三

他のサービスと何が違うのか

では、何故にAppleのサービスだけが成功したのか。ポイントはいくつか考えられる。まず20万曲という、スタート時としては充分な楽曲数を確保したこと。そしてCD-Rや携帯プレイヤーへのコピー回数が制限されないことだ。他のサービスは、CD-Rへのコピーは曲数に制限があるとか、追加料金が発生したりなどはするものの、まったくコピーできないわけではない。

Appleのサービスが他と完全に異なるのは課金形態である。Rhapsodyやpressplayは定額料金の会員制であり、音楽を聴き続けるためにはお金を払い続けなけらばならない。例えて言うならクルマのリース契約のようなものだ。一方、Appleのサービスは1曲99セントの買い取り制で、会員になる必要すらない。ひょっとするとこの違いが重要なのかも知れない。

いままでは、音楽配信は定額料金でなければ流行らない、という見方が主流であった。ダウンロードするたびに支払いの発生を意識しなくて済むから、ユーザーも抵抗なく使えるだろうというわけだ。仮に音楽という商品を、携帯電話やプロバイダの料金、あるいはソフトウェアのライセンスのようなもの、と考えるならそうだろう。

でも、音楽にも消費の快楽や所有欲のようなものがあり、リスナーはダウンロード購入でもそれを満たしたいのだとしたらどうだろう。Appleのサービスは99セント払えば、自由気ままにコピーするという形で、音楽を所有した実感を味わえるのだ。

実際のところリスナーがお金を払う目的は、継続してサービスを受けるためではなく、単に音楽を買うためなのである。

もうひとつ定額制にはすっきりしないところがある。誰の曲を何曲ダウンロードしようが料金不変ということは、著作権料は作品の販売実数に通りにアーティストへ支払われないということだ。ラジオやテレビのようなオールドメディアならともかく、オンライン配信ならそうした曖昧さもクリアにできるはずなのに、定額制は悪しき旧い方法を追認してしまうことになる。

では1曲単位の課金である、日本国内の配信サービスが盛り上がらない理由は何かといえば、とにかく楽曲が少な過ぎるからだ。各社のサービスを全部合わせても0.5万曲程度に過ぎない。海外のサービスをどうこう言う前に、まず自国の音楽すら満足に網羅できていない状況を嘆くべきなのだ。これはぜひなんとかしていただきたい。

そして日本の曲がオンライン上に揃った暁には、日本の曲が買えない悔しさを、外国の連中にもぜひ思い知らせてやりたいのだ。