制約がなくて自由な楽曲に、いつも惹かれる
──ケーシー・ジョーンズの列車事故については、多くの歌で唄われています。そのなかでも最も有名なのはグレイトフル・デッドのバージョンですが、なぜとくにこの楽曲に惹かれているのですか?
最高だから。ただそれだけさ。昔ながらの著名なブルースマン、フューリー・ルイスの曲なんだが、彼の「ハズし方」が好きなんだ。
──正統派のブルースをプレイするマディ・ウォーターズをカバーする人は多いですが、個性的で「彼らしい」スタイルでプレイするライトニン・ホプキンスにチャレンジする人はほとんどいませんね。これはやはりとっつきにくいからなのでしょうか。
制約がなくて自由な楽曲には、いつも惹かれるんだよ。W.C.ハンディが“St. Louis Blues”を楽譜にする前は、この手の音楽には決まった弾き方がなくて、演奏家がそのときの気分に応じてコードを変えたりしていたらしいんだ。ドールズ時代でも当然それはやっていたよ。ただ、曲って一度レコーディングされるとフィックスされてしまう。そうすると、最終的にはすべて似たりよったりの曲だらけになるんだ……まったく!
──“My Morphine”という曲は、昔のカントリーの曲によく挿入されていたヨーデル部分があって面白いですね。過ちを犯した恋人に対して歌いかけているように、優しさに溢れて、ムーディーで、歓喜に満ちたヨーデルではないですけどね。ヨーデルの経験は以前にも?
やってくれと依頼されない限りは、避けて通りたいところだね。感傷的なたちでもないし。
──“My Morphine”のみが唯一のコンテンポラリーな楽曲ですが、オリジナルはギリアン・ウェルチが唄っていますね。その彼は、ルシンダ・ウィリアムズ、スティーヴ・アールやライアン・アダムズらとともに「オルト・カントリー(オルタナ・カントリー)」や「ノー・ディプレッション」系のアーティストと呼ばれていますが、このシーンはチェックしてますか。
ルシンダのレコード数枚と、最初のギリアン・ウェルチの作品は持っている。概して、曲の雰囲気と曲全体のサウンドが好きだね。ただ、現在の「オルト・カントリー」のシーンにはついて行っていないよ。
──1975年の8月に、ドールズは日本公演を果たしていますが、そのときの来日でもっとも記憶に残っていることは?
2つ、ずいぶんとはっきり覚えていることがある。ひとつは、どこか地方の野外音楽堂のような場所で演奏したときのこと。見に来ていた野郎どもがみんな、ガールフレンドの肩に手をまわして、周りの丘に腰掛けてショーを見てたということ。もうひとつが、ある晩、明らかに金目的で、ヤクザっぽい男たちにしばらく人質にされたこと。ただ、彼らは英語を話せないので、何が要求なのかは理解できなかった。それに僕の知っている日本語というのは、レストランで使えそうな程度だから、数時間はかなり緊迫した空気だったね。結局、あきらめて解放されたけどね、最後には。