INTERVIW(3)——真っ向勝負
真っ向勝負
桜井青
――思いがけず〈ミッドナイト!〉のお話が長くなりましたが……続いてはタイトル曲の“春の日”。これは別れがテーマの切ない曲ですね。
桜井「ただのラヴソングですよ。ひねりのないラヴソング。ラヴソングって難しいよね? やっぱり」
石井「それは俺に言わないで(笑)。難しいどうこうじゃなくて、そもそも会話についていけないですからね」
桜井「“初恋中毒”とか、“最後の宿題”とか(共に2012年作『11』収録)、“さよなら、スターダスト”(2012年晩夏のツアーで配布されたシングル)とかもあるけど、ホントに普通のラヴソングを書いてみたかった」
――最近はそういうモードなんですか?
桜井「モードっていうか、自分の歌詞の芸幅を広げたいっていう。普通の歌詞を書けるようになりたい。この人(石井)みたいに超難しいものではなくて、普通の歌詞」
石井「だけど、普通のものって正面切って勝負するっていう話でもあるじゃないですか。より精巧でなければいけなかったりとか、いろんなところが問われますよね。俺はそういうものから逃げてるんです(笑)」
桜井「ウチらは、真っ向勝負のところからちょっと離れた隙間産業的な歌詞なんですよ。そこで評価されるところもあるんだと思うんですけど、真っ向から、メインストリームの歌詞を書いてみたいなって思ったんですよね。僕、個人的にはですよ? 相変わらず男女間とか男同士とかそういうのはどうでもよくて。人同士っていう感覚で書いていて、かつ、石井さんが歌ってもこれだったら恥ずかしくないだろうなっていう言葉を書いてるつもりだったんだけど、やっぱりね、秋元康とか松本隆とかはすごいなって思うわけですよ。森雪乃丞になるとちょっと違うんだけど」
石井「俺から見たら、秋元康も桜井青も全然同じレヴェルですよ」
桜井「僕、すごいじゃないですか(爆笑)」
――(笑)といいつつ、〈桜闇〉あたりは青さんらしい表現だなあと思いましたけど。
桜井「そうですか~。ひねってないんですけどね」
――あと〈桜〉って、禍々しいイメージに繋げることもできるでしょう?
桜井「ああ~……どうせあれでしょ? 〈桜の森の満開の下〉とかでしょ? ちゃんと入ってるんですよ、これ」
――入ってるんですね(笑)。
桜井「いいじゃん、別に(笑)。ちょっと矛盾するけど、自分らしさも入れつつ真っ向勝負みたいな(笑)。だって桜が散りまくる歌詞で、僕が(坂口)安吾を入れなかったらねえ。まあそこを踏まえての〈桜闇〉ですね」
――そしてサウンドの話に移りますと、これも青さんのTwitterからですが、この切ない“春の日”は当初、ずいぶん明るい曲調だったんですかね?
桜井「その明るいほうにいっちゃってたのは、研次郎君のベースだったのかもしれない。なんかね、ものすごくテクニカルな“北国の春”みたいなのがきてしまって。〈研次郎君、これすごく格好良いとは思うんだけど、もうちょっと……変えていただきたいなあ〉って(笑)。いわゆる日本音階で弾かれたベースですよね。すごく格好良いんだけど、イントロだけあまりにもパンチがありすぎて(笑)。エンジニアの白石(元久)さんと2人で〈はあ~(口あんぐりのポーズ)〉ってなっちゃって(笑)。もうちょっと切ないのがいいなって……わりと自分のなかではですよ? スピッツとか……」
石井「結構さ、イントロでベース入ってくるところは海援隊ですよ」
桜井「嘘ぉ~!?」
石井「しかも最近の」
――最近の海援隊とは……。
石井「結構、あとのほうの〈金八〉。(突然歌い出す)〈よあけ、まえの、うすぐらい~みちを~♪〉……“スタートライン”だ。結構その雰囲気だよね。ベースがね」
桜井「ああ、ベースね(胸を撫で下ろす)」
石井「〈金八〉の海援隊の歌って、みんな春っぽいじゃん」
桜井「ああ、そうだね。でもその発想はなかったわ(笑)」
石井「健全な春っぽさですよね。入学式っぽい感じで。俺ね、意外と武田鉄矢好きでね」
桜井「じゃあcali≠gariは全然オッケーじゃん。武田鉄矢みたいな、海援隊みたいな曲、いっぱいあるじゃん、ウチ」
石井「武田鉄矢っていったらほら、なんだっけ? あの〈ドラえもん〉の……」
桜井「“少年期”でしょ? 『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』の主題歌。あれすごく良い曲だね。アレンジも素晴らしい。歌詞も良いんですよ。〈ああ~、ぼーくはー、どうしーてー、おとーなにー♪〉」
桜井・石井「(ユニゾンで)〈なるんだろう~♪〉」
――ヴィジュアル系バンドですよ~。戻ってきてください。よくわかりましたから。聴いてみますから。
石井「俺ね、ドイツのニューウェイヴとかも好きなんですけどね」
――存じております。
石井「だけど、海援隊もイケるから、cali≠gariもイケるんじゃないですかね(笑)」
桜井「(笑)わかる」
――もう何の話をしてたのか……(笑)。
桜井「“春の日”のイントロね」
――そうでした。イントロから進んでない。あの、この曲の〈桜ソング感〉を支える要素として、清涼感のあるピアノやシンセの役割が大きいなと。
石井「アレンジが素晴らしいですよね」
桜井「桜が散りまくってるっていうね。あれは毎度お馴染みの秦野(猛行)さんです。スタジオ入って、もう好きにやってくださいって言ったら、〈じゃあ桜散らしまくるから〉って。それで、〈出来たけど〉って聴いてみたら、〈散ってる……〉って(笑)。録ってる最中に聴かないっていうのは非常におもしろいですね。基本的に聴いてるとさ、ああしたいこうしたいとかなっていくけど」
石井「そうなんだよね」
桜井「聴いてないから、できたのをパーン!って聴くと、それが正解っていう感じになるんですよね」