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インタビュー

菊地成孔

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月09日 12:37

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文/南部真里


ついにヒップホップを射程にとらえた、DCPRGからの最新報告

「ジャズからヒップホップにアプローチした作品は全部ジャズなんですよ。ロバート・グラスパーにいたるまでね。まったくヒップホップじゃない」

菊地成孔は「これはラッパー的なカマシだけど」と断った上でそういった。その見立てはこうだ。ヒップホップはソウル~ファンクを親にジャズの孫として黒人音楽史に誕生した。その遺伝子はマイクリレーや服飾といった記号/視覚的な因子にあらわれているだけでなく、たとえばホットなファンクに比して、ジャズとヒップホップはクールであることを是とするその価値観で、祖父と孫が親を迂回し親密になるような、ある種の典型をほのめかしもする。逆もまたしかりで、トライブからヌジャベスにいたるまで、ジャジーを冠するヒップホップはトートロジーにすぎない、と。菊地がヒップホップについて言及したのはほかでもない、メンバーを刷新し、DCPRGと名称を約めて投下した『Second Report From Iron Mountain USA』はヒップホップがカギだからである。「二次報告」と題した今作では、菊地自身、大谷能生とのジャズ・ドミュニスターズ名義でラップを披露し、昨年デビュー作をリリースした相模原のヒップホップ・ポッセ、シミラボを客演に招き、DCPRGの本領であるポリリズム/マルチ・グルーヴとラップのフローがひとつの土俵で四つに組んでいる。といってもこれはロックやジャズやヒップホップがいってきた雑食性とはちがう、ジャズとヒップホップの形式のせめぎあいであり、バップのソロからファンクのグルーヴを経由し、ラップのフローにいたる黒人音楽の数値化できない〈揺らぎ〉と〈訛り〉を元に、ジャズでもヒップホップでもある/ないものをさぐる作業でもある。もっともそのためにはまずは同じテーブルに就かなければならなかったわけだが。

「ラップはもう、トラックは硬いままウワモノがフローして歴史を終えるのかなと思いながら、毎日S.L.A.C.K.とかを聴いていたんですよ。それがある日、シミラボの《Walk Man》を聴いた。あの曲は揺れたトラックの上で揺れていないクリックに対して、揺れたラップが乗っているおそらくはじめての例で、そこにフォーカスしないで聴くと、素人っぽい雑さに聞こえるかもしれないけど、ヒップホップに興味のあるひとは驚くと思う。じっさい俺は驚いて、しばらく《Walk Man》ばっかり聴いていた。いよいよこれが出てきたならば、自分はヒップホップ・ラヴァーだけどジャズ・ミュージシャンなんだという領域以上のところに入っていけると思ったんだよね」

メロウな《マイクロフォン・タイソン》とハネる《Uncommon Unremix》、QN、OMSB、MARIA、DyyPRIDE──シミラボの4MCがタイプのちがう2曲で披露するフローは長年ヒップホップを聴き続けた菊地のヒップホップ進化論の立証であるだけでなく、シミラボの《Uncommon》のカヴァーである後者は、トラックの引力と余白がラップの表情をどう変えるか、リズム実験の側面をもっている。だけではない、というと読者は驚かれるかもしれないが、シミラボの存在は本作のもうひとつの主題、音楽史におけるジャズとヒップホップのポリティクスを包括する地政学さえ暗示する。いい忘れたが、菊地は冒頭ですでにそれをやっていた。《キャッチ22》。《サークル/ライン》とならぶDCPRGの代名詞だが、この曲をボーカロイドとジャズ・ドミュニスターズがマイクをまわすヒップホップ・ヴァージョンに再生した理由を菊地はこう述べる。

「《キャッチ22》をセルフ・カヴァーするなら、前にヴォイス・サンプリングでやったパートをボカロでやろうかな、というシャレだったんだけど、大谷くんからボカロにマイクがまわって、最後に俺が歌舞伎町をレペゼンしながら出てきたら相当な混血性だろうと考えたら妄想が止まらなくなった。その受け皿になるのはペペでもダブでもなくDCPRGだという必然性もあるし、〈インパルス!〉が51年目にしてはじめて日本人と契約したら、こんなことになっていたという結末もふくめ、 まったく『いいね!』としかいいようがない」

知性と野蛮、成熟と爛熟、新旧サブカルチャーにアキバに韓流、リリックに散りばめたタグは現在の日本を象徴するものだが、その縮図はフラットではない。どころかあらゆるものが多層化し輻輳した奥行きをもったままうねっている。菊地はその情況を純血に対する「混血」と位置づけ「ヒスパニック」になぞらえる。マイルスのカヴァーにアミリ・バラカ(対白人だけでなく、黒人社会の階層化もぬかりなく指弾したひとだ)のアジテーションをかぶせた幕引きの《デュラン》にいたるまで、混血性というテーマは、『Second Report~』の「どぎつさ」の基調であると同時に、新旧デートコースの切断線にもなっている。

気の狂った指揮官は既視感を反復により反転させる。たやすくしゃぶり尽くせるものではない。

photo by chikashi  ICHINOSE (skyworks)

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