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インタビュー

EMI MARIA 『BLUE BIRD』

 

心の色も空の色もすべて翼に変えて、どこまでも飛び立っていく魂の歌……多様な経験を糧に生み出した新作は、美しく磨き上げられた珠玉のソウルで溢れている!

 

「〈挑戦しよう〉っていう気持ちだったし、それがすごく出た作品」――メジャー・デビュー作となった前作『CONTRAST』についてEMI MARIAはそう振り返る。いちリスナーとしてはメジャーやインディーという区分をさほど意識する必要は感じないが、それでも本人は気負いがあったことを率直に認める。

「自分が持ってるスタイル以外のものも意識して、できる限りのことはやりきったからスッキリしたし、いろんなプロデューサーの方と組んでみて皆さんから学んだことは多いです。技術的にも、例えば“Nobody Like You”のようなトラックを自分で作れるようになったし、今回はそれらすべてを活かして、もう一回自分でやってみようと思った作品ですね」。

デビュー当初から詞曲からトラックメイクまで手掛けてきた彼女ではあったが、人と組むことによって、逆に「自分にしかないものが濃く出てるような作品がもっと作りたい」という熱意がぶり返してきたということだろう。先行ミニ・アルバム『cross over』に収められたその“Nobody Like You”は、彼女ならではのヴォーカリゼーションがシンプルに重ねられた、デビュー時の鮮烈さを思い出させる、単純にメチャクチャいい曲でもあった。

「今回はそういう意味でもベーシックに……シンプルでいい曲をたくさん作りたかったし、基本として、もっと人に永く聴いてもらえるものが大事だと思いました。そういう気持ちを改めて持てたので、結果的には『cross over』でワンクッション入ったのは良かったかな」。

そんな意識の延長線上に完成されたのがニュー・アルバムの『BLUE BIRD』だ。

「タイトルは最後に決めたんですけど。曲を作ってる最中に、何となく全体のイメージが〈青〉やったんですよ。あと、ハッピーな恋愛の曲でも痛い感じの曲でも〈何かを探してる人〉が主役の歌が多かったし、童話の〈青い鳥〉みたいに探してた幸せは近くにあった、って感じる機会もあって」。

コンセプチュアルな近作とは異なり、「自分でやること自体がコンセプト」だという新作には、『CONTRAST』での挑戦も持ち前の歌心もすべて消化してアップデートされた、いまのEMI MARIAが溢れている。憂鬱なブルーを湛えた序盤のトーンから透明感のあるブルーが広がる表題曲へと至り、サウンド志向を表現したリアーナ調のエレクトロ“Sexiest Girl”を挿んで、空から射す陽光のような温かみがソウルフルに広がり、ゆったりした充足感でだんだん満たされていく構成も素晴らしい。本人は「幅広さとかは求めなかった」というが、アレンジにもリリックの内容にも自然なグラデーションがあるのだ。基本的なアレンジはライヴDJも務める盟友のNAOtheLAIZAが手掛け、甘酸っぱくもポップな“Cotton Candy”やEMI節とも言えるミディアムの“フォーエバー ・ラブ”などで主役の穏やかな表情を好サポート。他にも松田博之とMANABOONが1曲ずつのアレンジを委ねられていて、特に松田が“O・Y・A・S・U・M・I”に用意したネオ・ソウル風の快いヴァイブにはR&B好きならずとも浸ってしまうはずだ。

「松田さんは自分の好きな感じをわかってくれてる!っていう人で、〈ディアンジェロとかマックスウェルみたいな感じにしたいんです〉ってお願いしたら予想以上に格好良くしてもらいました」。

彼女単独のアレンジ曲では、サザン・ソウル調の“ソウルメイト”も聴きモノだが、故郷のパプアニューギニアに18年ぶりに帰った経験から生まれた“Proud”は、アルバムのクロージングにしてキーとなるナンバーだろう。

「何かを振り返ることで、いまの自分を客観的に見ることもできたし、そういうことから生まれた曲ですね。いまもどっちかというとサウンド作りのほうが得意なんですけど、今回はそれでも自分の言いたいことに近い詞がメロディーに乗せられたと思います」。

つまり、彼女は彼女の歌を歌っている。そして、そうするだけで素晴らしい作品を生み出せるアーティストなんて、そうはいないのだ。

 

▼EMI MARIAの作品。

左から、2007年のミニ・アルバム『Between the Music』(FMMP)、2008年作『A Ballad Of My Own』(KSR)、2010年作『CONTRAST』、同年のミニ・アルバム『cross over』(共にビクター)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年04月14日 15:32

更新: 2011年04月14日 15:33

ソース: bounce 329号 (2011年2月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次

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