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インタビュー

The Ghost of a Saber Tooth Tiger

「剣歯虎の霊」は美しいサウンドに牙を隠す

ショーン レノンはこれまでの活動(自分の作品、母オノ・ヨーコのプロデュース、チボ・マットとのコラボなど)で、親の七光りなど必要ない確固たる才能を示してきたが、自分のアルバムは10数年で2枚(+サントラなど)と多くない。「僕はミュージシャン志向で、ポップ・スターになりたいと思ったことはない」という思いとは裏腹に、父ジョンとの無用な比較や売れ線の曲を期待するレコード会社の思惑などに重圧を感じ、以前は自分でもそのことを意識せざるをえなかったのだ。

だが、年齢を重ねて「今もストレスはあるけど、そういったことをあまり気にしなくなった」という。それは重荷を分かち合えるバンドの一員だからでもある。昨年設立した自分たちのレーベル、【キメラ・ミュージック】から『アコースティック・セッションズ』でデビューしたザ・ゴースト・オブ・ア・セイバー・トゥース・タイガー(G.O.A.S.T.T.)はショーンとシャーロット・ケンプ・ミュールとのデュオだ。2人は恋人同士でもある。公私のカップルの功罪を問うと、シャーロットは日本語で「ムツカシイネ」と一言。ショーンはこう説明する。

「大体は良いことだけど、むずかしくもなりえるね。というのは、このバンドは対等で、両方がリーダーでいこうと決めた。時には一人がひっぱっていく方が簡単だろう。僕らは両方が満足するまで話し合う必要がある。少なくとも彼女が満足するまでね(笑)。でも、そのことが共同作業について多くを教えてくれて、恋愛関係も強くしてくれるんだ。正直でいなくちゃいけないからね」

『アコースティック・セッションズ』はタイトル通りにフォーキーなサウンドの一枚。南部出身のシャーロットはブルーグラスが好きというくらいで、フォークやカントリーもルーツにあるが、このデュオは「アメリカよりも英国のフォークの方に影響を受けている」という。影響源としてシド・バレットの名前も出たように、彼らの曲にはシュールな夢のような世界を描く曲が多い。そして、その歌の世界やヴィジュアル・イメージには、ヴィクトリア朝あたりの少し古い世界への関心が窺われる。

「僕らは現代社会に愛憎半ばする感情を持っている。昔に戻りたいわけじゃない。でも、古い時代のある部分に惹かれる。テクノロジーの進歩がコミュケーションを容易にさせたことはありがたいんだけど、僕らを取り囲むすべてのものがプラスティックとかで作られ、醜いと思う」とショーン。シャーロットも同意する。「醜いだけじゃなくって、木や紙、皮といった本当のものへのつながりを失いつつあると感じるわ」。

現代社会の進む行路への疑問や不満は収録曲からも聞き取れる。「僕らは現代社会がSF的なシュールな悪夢に向かっていると感じているんだよ」という現代と過去への思いは、制作中の次作の主題でもあるようだ。そのタイトルは『ヴィクトリア朝のサイボーグ』だそうだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年01月07日 20:37

更新: 2011年01月07日 20:43

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

interview & text : 五十嵐正