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インタビュー

Kimonos 『Kimonos』

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年12月06日 15:01

更新: 2010年12月06日 15:02

ソース: bounce 327号 (2010年11月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野

 

この2人の邂逅、この2人が生み出したサウンドは偶然? それとも必然? 東京に流れ着いた〈異邦人〉が描く、時空を超えたポップ・ミュージックは奇跡のようだよ!

 

 

Interview to LEO今井

一瞬、首を傾げる組み合わせではある。香辛料で例えるなら〈唐辛子×ブラックペッパー〉といったところだろうか。それぞれに強い香りを持ち、合わせてしまうとクセを消し合ってしまうように思えてしまう関係。だが、実際に試してみると——互いにそれまで感じられなかった甘みやまろやかさなんかが引き出されて思わぬ味わいとなった、とでも言えば良いだろうか。向井秀徳(ZAZEN BOYS)×LEO今井=Kimonos。それはまさしくそんな香辛料同士のぶつかり合いの末に誕生した、新たな味わいそのものだ。

「54-71のファンだったんで、それをきっかけにZAZEN BOYSと向井さんを知ったんです。2002年くらいのことでした。日本的な音楽でもあるし、どこか別の国の音楽のような感じもしたし……多国籍なんだか無国籍なんだかわからないですけど、いろんな要素があって、でも取って付けたような感じじゃなくて、全部ひとつのスープのなかに溶け合っていて……とにかくカッコ良かった。そのハイブリッドなところは当時私が欲していた感覚だったんです」。

LEO今井にしてみれば、向井秀徳は共演してみたい憧れの相手だった。2007年、最初は今井主催のイヴェントへの出演要請、2008年にはシングル“Metro”に向井が参加、そしてスタジオでのちょっとしたセッションへ——Kimonosはそうした経緯から自然発生的に誕生した。だが、何度かセッションを重ねていくなかで、このユニットの方向性は両者の豊かな交わりの成熟の過程で浮き彫りになっていく。

「最初はカヴァーEPを作るつもりだったんです。でも、だんだんと物足りなくなっていってオリジナル曲を作ってみた。最初に出来たのは“Haiya”。それが上手くいったんで、じゃあオリジナルをもっと作ってフル・アルバムにしようってことになったんです。ただ、まだその頃でもKimonosのコンセプトとかは考えてなかったんです」。

スタイルとしては互いに浮かんだ曲のパーツを自在に組み合わせていくという作り方。そこにはテーマもなければコンセプトもなし。リファレンスもほとんど必要としなかったという。だが、それでも自然とKimonosの音は輪郭をなしていった。気がつけば、エッジーでオルタナティヴなのに洗練されていて、郷愁感もあるのにモダンという他に類を見ないポップ・ミュージックが完成されていったのだ。

「瞬間瞬間に出てくるインスピレーションに身を任せて曲を作りたかったんです。もちろん、これまで僕も向井さんもそれぞれひとりでそういう作り方をしてきたと思うんだけど、それを2人でできるのかな?という不安もありました。でも、自分がチャンネルになってアイデアを出すだけでいいんだって感じで迷いなくやれたのが良かったんじゃないかな」。

とはいえ、Kimonosにはかなり明確にフォーカスされたテーマと音の方向性がある。それは、物理的距離と歴史的時間とを超越した和と洋の融和。舞台は東京だ。向井は九州から東京へと出てきてミュージシャンとしてのキャリアを本格化させた。東京出身ながらインターナショナルな感覚を持って海外で生活していた今井も、大人になってから東京へと戻ってプロのミュージシャンになった。その両者から見た都市の風景に、今井は大正時代の美人画のイメージを重ねていったという。もちろん、それも作業のプロセスのなかからおのずと抽出されたものだった。

「作業の中盤くらいでした。そろそろ私のこのプロジェクトに対する思いをちゃんと向井さんに話さないといけないなと感じたんです。そこで向井さんに、今回のジャケットに使用したかった美人画を説明して。あの絵から伝わってくるのは、大正デモクラシーの時代の日本独自の文化と海外の文化の調和的な融合。私には混ざり切っているおもしろさがあると思ったんです。で、それはまさにいま私と向井さんがやろうとしていることと同じなんじゃないか?って」。

そう、Kimonosはただ仲良しミュージシャンが手を組んだわけではない、あくまで時代と文化の必然が生んだユニットだった。アルバムを完成させたいま、2人はそこに気付いている。

「大人になってから日本……東京へ戻ってきた時に感じたのは、魅力的な街ですが、化け物っぽくもあるなということなんです。楽しい瞬間もあるけど、グロテスクな瞬間もある。母国でもあるのに気持ちは異邦人、というような。まあ、猛烈にクリティカルですよね」。

 

▼LEO今井の作品を紹介。

左から、2006年作『CITY FOLK』(ウーツー)、2007年のミニ・アルバム『CITY FOLK 0.5』(RESERVOTION)、2008年作『FIX NEON』、2009年作『Laser Rain』(共にEMI Music Japan)

 

 

Interview to 向井秀徳

「彼のイヴェントに誘われた時がLEOを知った最初。まだインディーからアルバムを出したばかりで、こっちは名前も知らない。〈LEO今井? マジシャンか?〉みたいなね(笑)。でも、聴いてみると共感して。〈地方出身者から見る東京の風景〉を描いているな、と。私も福岡から出てきて特殊な目線で東京を見ていて、それを曲にしたいと思っていたからね。〈流れ着いて辿り着いた地方出身者が暮らす東京〉に対する眼差し、そこに共感したわけです」。

ZAZEN BOYSのリーダーとしての活動を軸にプロデュースやライヴなどを数多くこなす向井秀徳が、独立した感覚を持った他アーティストと対等にユニットを結成。それだけでも十分〈事件〉ではある。それがLEO今井という、一見バックボーンがまったく異なる相手とあればなおのことだろう。だが、両者には見えない共通点があった。それが冒頭の発言にある、共に異文化、見知らぬ土地に対する憧憬や不安を抱えながら東京へと漂流したという自覚だ。今井主催のイヴェントでの共演を経て意気投合した2人は、向井所有のMATSURI STUDIOで細野晴臣やPINK、あるいは今井のほうから提案するサイプレス・ヒルやトーキング・ヘッズなどのカヴァー曲をあれこれ試しながら互いの感覚を重ね合わせていった(正式にレコーディングされたのはアルバムに収録されている細野晴臣の“Sports Men”のみ)。それがKimonosのスタートであり、思想的原点だ。

「例えば東京の夜景を感じさせるキラキラした曲はたくさんある。でもそれらすべてを焼き尽くしてしまおう、みたいな破壊的な衝動もあるし、一方でその眩しさを愛でてるというね。愛でながらも憎む。感覚としては〈サイバーな松尾芭蕉〉ですね。アメリカ映画が東京を描くような感覚に近い。〈ロスト・イン・トランスレーション〉? まあ、そうですね。あんなにシャレオツじゃないですけど(笑)。それがKimonosですよ。もちろん、最初からそんなことを考えて始めたわけではないですけどね」。

結果、ファースト・アルバム『Kimonos』は、他に例えようのないほどに現代的な作品となった。正直言って、想像をはるかに超えた素晴らしい仕上がりだ。最初から明確なコンセプトに貫かれて始まったユニットではなかったとはいえ、気がつけばクセのあるスパイスとスパイスが合わさった時に醸し出されるミラクルがそこに起こっていた、ということだろうか。日本的音階とそれに基づいた和音、シャープだけどどこかに懐かしさも感じさせるリズム、隙間を活かした音処理——だが、それらは決して斬新な手法に基づいたものでも計算されたものでもなく、むしろかなりスポンティニアスに作られたもの。ディアフーフのグレッグ・ソーニアやZAZEN BOYSの吉田一郎らが曲によって参加してはいるものの、基本は向井と今井の2人だけで作られているのも特筆すべき点だ。なのに、密室感はない。どうしようもなくポップでキャッチーで、むしろ人肌の温もりと暖かさを感じさせる音楽でもある。そう、向井秀徳とLEO今井から放たれる東京という都市へのラヴソングであり、レクイエム。それがこのKimonosなのではないだろうか。

「ビルとビルの隙間に風景が見え隠れする感覚ですよね。そこにポッカリ見つかったりする匂い……イワシの生姜煮の匂いですよね。あと、昔からある風景のなかの音。その営みを実感するんですよ、近代的でキラキラした夜景が感じられるビルの合間から。それを、地方から東京に漂流してきた僕とLEO今井が描くというね、そこにおもしろさがあると思うんですよ」。

ジャケットのアートワークは主に戦前に活動していた日本画家の中村大三郎の手による「ピアノ」。今井が好きでチョイスしたという、和装の女性がピアノを演奏している和洋折衷のこの絵画に象徴されているように、ここには時空を超えて描かれる都市文化の脈動も込められている。今井からその絵を見せられた向井は、そこに2人の間を繋ぐものの不可思議さ、芳醇さを感じ取り、ただ互いにリフやメロディーを交換しながら曲を作っていく作業のなかにサウンド面での確信犯的目線を注入。『Kimonos』がこんなに現代的な作品になったのは音作りの中盤における向井による冷静な判断があったからに他ならない。向井はアグレッシヴな表現者という以上にモダンな感覚を備えたクリエイターでもあるからだ。

「まあ、サウンド的には85年〜87年くらいの音作りに興味があったというのもあって。エコーで音を広げるような感覚ですね。80年代当時としてはゴージャスな音だったと思うんですけど、そこでプリンスが登場して、エコーだのデジタル・リヴァーヴなどをカットして、シンプルで無機質な生々しい音を作り上げていった。当時は私も含めてそこに驚愕したわけですよ。具体的には『Sign "O" The Times』あたりの作品ですよね。だから、私も今回はドラムマシーンとシンセで大半の曲を作りました。作り方としては、私とLEOとでスタジオで音のやりとりをしながら完成させていったんですけど、こちらの思惑としては、そういう音作りで出来た歌をLEOに歌ってほしかったというのもありますね」。

 

▼ZAZEN BOYSの作品を紹介。

左から、2004年作『ZAZEN BOYS』、同『ZAZEN BOYS II』、2006年作『ZAZEN BOYS III』、2008年作『ZAZEN BOYS 4』(すべてMATSURI STUDIO)

 

▼関連作品を紹介。

左から、細野晴臣の82年作『PHILHARMONY』(YEN/ソニー)、プリンスの87年作『Sign "O" The Times』(Paisley Park/Warner Bros.)、向井秀徳の著書「厚岸のおかず」(イースト・プレス)

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