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インタビュー

新作『still a Sigure virgin?』の向かう先

 

凛として時雨の作品について語る際、中心人物のTKがエンジニアも兼任しているということは非常に重要なポイントだ。バンドマンがソングライティングやアレンジのスキルを作品ごとに磨いていくのと同様に、彼はエンジニアとしてのスキルも磨いていく。そして新作『still a Sigure virgin?』は、そんなTKの個性がこれまで以上に発揮されたものだと言って良いだろう。その象徴が“シャンディ”。ギターではなくピアノがメインで使われていることも新鮮だが、それ以上にこの曲は偏執狂的なエディット感が凄まじく、やや安易な例えではあるが、思わずエイフェックス・ツインという形容をしたくなるほどだ。他の曲にもさまざまなエフェクト処理やバランスをあえて崩したような音の配置がなされ、それによってもともとエクストリームなヴォーカルと演奏を持ち味とするバンドがさらなる爆発力を手にしていることは間違いない。

また濃密な作品であるため、全曲聴き通すには正直疲労感も伴うが、40分足らずのコンパクトな作品としてまとめていること、アコギのストロークを中心としたシンプルなアレンジの“eF”を収録するなど、バランスもちゃんと取られているのは流石。ハード・ロック/ヘヴィー・メタルに通じる高度な演奏テクニックに根差したエキセントリシティーから、ロックンロールのシンプリシティーへと時代が移り変わっているなか、凛として時雨は前者を代表しながら、明確にその先を見据えている。〈まだ時雨を知らないの?〉という挑発的なタイトルも、こうして成長を続ける彼らだからこそ許されるのだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年09月15日 17:59

更新: 2010年09月15日 18:03

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

文/金子厚武