LONG REVIEW――つしまみれ 『Sex on the Beach』

photo by saito mayumin

2010年3月12日。AC／DCが約9年ぶりの来日公演をさいたまスーパーアリーナでスタートさせた頃、筆者は渋谷のclub asiaにいた。つしまみれの〈花まみれ～新曲お披露目ワンマン～〉に駆け付けたのである。事前に得ていた情報は、ニュー・アルバム『Sex on the Beach』からほぼ全曲が披露されるということと、そのなかに〈おじいちゃんの面影〉がいつの間にかオジー・オズボーンと同期する言葉遊び全開ナンバー“おじいちゃんのおズボン”（2008年作『つしまみれとロックとビアで』に収録）へのアンサー・ソング“おばあちゃんのブラジャー”が含まれるということで……これは行かねばなるまい!　と、参上した次第。

当日、パフォーマンス前に上映されたのは、先行シングル“ストロボ”のPVである。疾走するギター・サウンドに乗せて大好きな人への恋心を真っ直ぐに歌ったラヴソングだが、転調／変拍子上等の破壊的にジャンキーなロックンロールを爆発させてきた彼女たちにすれば、そのストレートさこそが新機軸。シアトリカルと言えるほどに変幻自在な〈声〉を操るまりは、この曲では乙女道まっしぐらの歌詞に合わせて張りのある歌声を素直に開放。伸びやかなサビのメロディーとの絶妙なマッチングで、聴き手の胸に切なさをグッサリと突き刺してくる。

かと思えば、映像の下に流れていた歌詞のテロップでは、〈いくらくりかえしたって　かまわないの〉の〈イクラ〉と〈カマ〉を強調していたり。その一筋縄ではいかない演出が、何とも彼女たちらしかったりもする（フロアでも男子たちが口々に「ダジャレ!?」と叫んでいた）。

新作に収録された全13曲のうち、この日に披露されたのは“姫事情”“～ラッパ練習中～”を除く11曲。ガレージなギター・リフと重たくうねるリズム隊にのっけから腰を持っていかれる“Sex on the Beach”にはじまり、字余り気味の歌が転がるファストなパンク・チューン……から突如どうかと思うほどのキラキラしたポップソングに様変わりする“J-POP”、狂乱のエモーションが行く先知れずのまま突っ走るグランジ・ナンバー“Nezumi Sensation”（ライヴの際は“寝ずに●ィズニー”）など、言わば〈ジャンル〉をネタ的にデフォルメしたかのような突き抜けた楽曲が次から次へと飛び出してくる。

そして、いよいよ“おばあちゃんのブラジャー”だ。冒頭ではセクシーな風情を漂わせておきながら、Bメロに突入した途端、ヘヴィー・メタリックに歌い上げられる言葉は〈ナ～イスバ～ディ～バ～～チャ～ン〉である。さらに、ゴリゴリと押しまくる極太のリフを従えたサビでは、まりとやよいが〈ちちバンド　ちちバンド　ちバーン／ちちバンド　ちちバンド　ち BURRRRN!!!〉と目を剥いて絶叫。眼前には〈ちちバンド〉ごとに激しくヘッド・バンギングする観客たち、という光景が広がっていて――その壮絶な格好良さとおもしろさにこらえきれず、周りの目をよそに大爆笑してしまった。そして、これは女目線じゃないと……というか、彼女たちでないと歌えない歌だなあと、その個性的すぎる佇まいに感じ入る。

いい意味でマニアック志向がない彼女たちは、だからこそ、ロックンロールのキャッチーさ、ポップさ、わかりやすさを的確に掬い取るスキルに長けている。そして、複雑な曲展開にまぎれていたその能力を全面的に前へ押し出した作品が、この『Sex on the Beach』である。〈ベタであること〉に対するリスペクトと非リスペクトが盛大に入り交じる音楽性を嫌味なく、ユーモラスに提示できるバンドはなかなかいない。それを本能でやってのけてしまっているのが、つしまみれの凄みではないかと思う。

花まみれ～新曲お披露目ワンマン～ @ club asia 2010年3月12日（金）　セットリスト

01. Sex on the Beach（新曲）
02. J-POP（新曲）
03. 寝ずに●ィズニー（新曲）
04. ストロボ（新曲）
05. かけがえのない日々
06. うめうまいタネデカイ
07. 桃だろう（新曲）
08. さくらんボーイ
09. 自転車（新曲）
10. ラッシュアワー（新曲）
11. パンバスケット（新曲）
12. おばあちゃんのブラジャー（新曲）
13. チキンサンドイッチ（新曲）
14. 岩壁の上の一本指総長
15. タイムラグ
16. おじいちゃんのおズボン
17. 脳みそショートケーキ

―アンコール―

01. まつり
02. バカ元カレー
03. 人生圏外（新曲）