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インタビュー

Tomoko Miyata

NYの腕利きたちをときめかせる、注目の才能

ルパート・ホルムズの名バラード《People That You Never Get To Love》がソフトなボサ・チューンとなって登場する。この幕開けで一気にとろけた。その柔らかな風を送る面子を確認すると、ギターの欄にホメロ・ルバンボの名が。またパーカッションにはシロ・バチスタの名も。何度聴いても飽きない。さらに聴くたび歌声の主に恋焦がれている自分にも気付く。いまはNY在住の日本人シンガー、Tomoko Miyata のデビュー作『SECRET OF LIFE』が聴けない夜は、寂しくて眠れなくなってしまったほど。

彼女は愛知県春日井市生まれ。歌が自分を表現する方法だと真剣に意識したのは17歳の時。「人とのコミュニケーションにフラストレーションを感じていたときだったんですが、友人と2人のユニットで小さなバーでライヴする機会を与えられて、そこで歌を歌うことがとても正直で直接的な感情のアウトプットだと自覚したんです」と彼女は話す。高校卒業後、ジャズをやりたくてカリフォルニアに渡った。やがてブラジル音楽と出会い、恋に落ちる。LAでは今回のレコーディングを全面的にバックアップしているホメロ・ルバンボとの出会いもあった。今回彼は、この稀有なシンガーの存在を早く世に伝えねば、という使命感を持って制作に臨んだ、と勝手に想像しているのだが、そう思わせるほどにここでは愛情深い演奏を提供している。他の参加者、シロ・バチスタやセーザル・カマルゴ・マリアーノたちもまた同様で、彼女の才能に驚き、その新鮮な感動を演奏に乗せて届けようとしているかのよう。

「ホメロの魅力はプレーヤーとしてとてもフレキシブルだということ。こういったタイプのアルバム作りにおいてはジャンルにこだわらず素晴らしい音とアイデアを提供してくれることが大事なので。シロは子供用のプレイ・エリアのように大量の打楽器を床に並べ、音で遊んでいる様子が印象的で。私もいっしょに遊ばせてもらいました。セーザルは歌詞の表現のニュアンスを指導してくれました。彼は予定の曲を録り終えた後に『何か1曲やろう』と提案してくれて、《Tea For Two》を録ったんですよ」

セーザルは彼女の歌に触れて、「まるでぺギー・リーみたいじゃないか!」と感想を述べたというが、至極納得。この陰影に富んだ魅力的な歌声に、そういう賛辞も大げさに聞こえない。ところで初めてこのアルバムをかけていたとき、たぶんメロディー・ガルドーと比べられたりするのだろうなんてぼんやり考えていた。ジャズの素養があり、ブラジリアンやフォークなどの要素を巧く調和させるセンスは比較対象になり得るもの。が、安全地帯の《恋の予感》の英詩版カヴァー《The Shadow Of Love》が出てきた辺りで、この哀切感を メロディー嬢は出せるか? なんて自問している自分がおり、ぼんやりしていたことを恥じた。こんな充実作を作り上げた彼女だが、いまどんな手ごたえを感じているのだろう? 今後の目標も訊いてみた。

「アーティストやエンジニアが最高の道具と素材を持ち寄って、1つの家を築いていくようなプロセスと、演奏を最高に楽しみながら録った音がスナップ・ショットとして残ることにとても充実感を抱いています。今後の目標は、ストーリー・テリングをさらに大切にしていこうということでしょうか。あと、オリジナルはほんの数曲しか書いていませんが、今後はもっと時間をかけたいですね。念頭においているのは繰り返しても真実味を失わない言葉を使うことかな」

そうそう、本作で彼女唯一のオリジナル・ナンバー《What My Heart Does》のメランコリックな味わいがたまらなく良いのだ。次回はたっぷりとお願いしたい。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年03月04日 18:17

更新: 2010年03月04日 18:28

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview&text:桑原シロー