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インタビュー

吉井和哉(2)

やっと自分の求めていた音が鳴った

 思いのほか音楽に対して求道的である。自分の才能とこれまでの蓄積の上にあぐらをかくタイプではない。曲の断片は毎日作っている。ギターを手にしている時間が多い。自分の言葉を日々探している――5枚目となるニュー・アルバム『VOLT』は、ソロになってからよりいっそう音楽と真摯に向き合っている、そんな吉井の集大成的な一枚だ。メロディーは十八番とも思える歌謡ロック感の強いものだが、US西海岸で録音されたサウンドは乾いていて実にラフ。キーボード(ウィルコ/オータム・ディフェンスのパトリック・サンソン!)を含むバンド・アンサンブルのグルーヴも、聴き手の肌にスッと馴染んでくる。

「例えば、BB・キングにハマったんですけど、だからってブルースにこだわらずに遊びながら作ったほうがいいんです。バンド(THE YELLOW MONKEY)時代は、〈よし、こういう曲を作ろう〉って決めて作ったりしたんですけど、いまはもっとリラックスしてますね。特に今回はそうです。〈とにかく細かいことを考えずに勢いでいこう!〉って、それだけだったですから(笑)。でも、今回のアルバムでやっと自分が求めていた音が鳴った実感があるんです。〈吉井和哉のバンドをやる〉んじゃなくて〈吉井和哉がバンドになったらどうなるんだろう?〉って、そういう感じの音がようやく見つかった。いまのメンバーは何も言わなくても求める音をちゃんと出してくれるし、それ以上のものを返してくれる。こういう感触を探していたんですよ」。

 そう語る吉井は、まるで欲しかったオモチャをやっと手に入れて喜ぶ、無邪気な少年のようだ。「曲を作るのが好き。本当にそれだけがずっと自分を支えてきたと思う」――THE YELLOW MONKEYから数えて20年を超える経験が彼にもたらしたものは、そんなささやかな一点だった。しかし、だからこそ人気絶頂のなかでバンドの活動休止を決意~解散、またYOSHII LOVINSONとしてソロに転向するも本名に変更して再出発、という紆余曲折を乗り越えることができたのだろう。華やかなスター性のあるヴォーカリストという印象からは窺えない、純粋な音楽ファンとしての側面が素直に作品へ投影されるようになったのも、曲を作ることが何よりも好きということに自身が意識的になったからかもしれない。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年03月26日 17:00

更新: 2009年03月26日 18:35

ソース: 『bounce』 307号(2009/2/25)

文/岡村詩野