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インタビュー

グディングス・リナ(2)

空想にはならない

 ステーヴィー・ワンダーを好きになるような子供。音楽好きというだけでなく、都市によく馴染む、ちょっと早熟だが、自己の利発さを利己的に使わずに、誠実であろうとすることやその価値を信じている子供。都市生活者というだけではなく、都市で生まれた子供たち、生まれつきの情報のオーヴァーフロウを小学校の制服に隠しながら地下鉄に乗って西から東、南から北へと同級生と小さな「スタンド・バイ・ミー」をする小さな冒険者たち――朝と午後の車内での大人の視線を了解しつつ無視して、〈さようなら〉を窓越しに言うのが日常の子供たち。そんな子供たちはいつでもリアリストだから、大人になるとほとんどがあたかも〈卒業〉したかのようにアートという危険な玩具から手を離す。グディングス・リナはそちらを選ばずに、会社員を経験した後にスピード退社をし、メロディーを紡ぎ、歌い続けることを選んだのである。この国では勇敢で美しい女性が次の時代を作る。

「自分にとってリアリティーのある生活環境が都市なんですが、別の場所に移り住んだら、いまここにいることは描けなくなるかもしれない、だったら描いておきたい、という気持ちは凄くあります。自分の歌では、まったくの捏造はできない、不器用であるかもしれないけど、嘘はつけない、ということはあると思います。柔らかい音楽、と受け取られることが多いのだと思いますが、自分としては反抗心やメッセージがあってやっているつもりです。それをどう出すか、というのが人と違うんです。怒りを怒らずに表現したい、とか(笑)、言いたいことがやっていることなので、自然と空想にはならないんです。そういうふうにはあまりならない……いまのところはね。演じている曲もありますが、メッセージ・ソングでそれはやらないですね」。

 この『大都市を電車はゆく』を手にした人には、ともかく何回か聴いてほしい、試聴機でイントロダクションを15秒聴いて印象を決めずに、何回も聴いてほしい。音楽制作、音楽ビジネス、音楽を巡るありとあらゆる種類の環境は、音楽そのものとは違う。レディオヘッドがDRMの方向を決めるのかどうかという影響と、彼らの音楽は別にして聴かれるべきである。3MやらP&Gのエグゼクティヴたちが口を揃えて言うように、生産労働スピードが概算で10年前と比較して2倍になった2007年だから、音楽こそはリニアな時間軸からあなたを解き放つ最後の魔術のひとつだ。テクノロジーと経済がかつてなく音楽の周縁と分かち難くなったからこそ、僕たちはそうした外側に目を向けるのではなく、音楽そのものを体験する、すなわち自分の内側をより発見するべきである。そのための労苦を惜しまないアーティストこそが、〈アーティスト〉の定義。

「自分が表現したいことは、音楽としては、コンシャスなものの影響が物凄く大きいと思います。日本のコンシャスな音楽っていうと、ヒップホップとかが意外とそうだと思っていて(彼女の今回のアルバムにはSHING02がラッパーとして参加している)。1曲目の“LIFE”とかポップだと思うけど、言っていることは現状を憂いている曲なんです。でもね、たとえ憂いている時でも〈私はこんなことがあって悲しいのだ!〉って言っているよりも、〈こんなことがあってさ〉って笑い話をしているほうが私は好きで。コメディー映画も大好きなんです」。

 知ってた? TOKYO IS A FRIENDLY TOWN!! グディングス・リナの存在がそれを証明しているんだよ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年12月06日 20:00

ソース: 『bounce』 293号(2007/11/25)

文/荏開津 広