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インタビュー

Two Lone Swordsmen(2)

ゲスト・アーティストを使うのは嫌いだ

 トゥー・ローン・スウォーズメンの4枚目のアルバム『From The Double Gone Chapel』は、ポスト・パンクな時代を踏まえつつ、まさに「他のこと」にもトライしているアルバムです。この作品でDJアンドリュー・ウェザオールはなんと歌を披露し、相棒キース・テニスウッドはギターとベースを弾き、友達連中がドラムを叩いているのです! 基本ラインはエレクトロニック・ダンスだったウェザオールなのに、今回はノン・プログラムの曲がほとんどなのにもびっくり。

「去年ぐらいから、もともと集めていたロカビリーとロックンロールのレコードのコレクションにまたハマりはじめたんだ。で、ロンドン市内で友達が始めたパブでもその手の音楽とか40年代のR&B、60年代や70年代初頭のサイケデリック・ロック、あとクラッシュやニューヨーク・ドールズなどのモダン・ロックを回すようになった。そのおかげで電子音楽を聴く機会が少なくなったんだ」。

 そのあたりが『From The Double Gone Chapel』の音楽性にも思いきり出ています。初期のニュー・オーダーやフォール、あるいはパブリック・イメージ・リミテッドとかのポスト・パンクと、ロックンロールやロカビリーと、テクノがミックスされている感じなのです。

「『Nine O'Clock Drop』と、今回のアルバムの曲の多くは繋がっているかも。でも狙ってやったわけじゃないんだ。ワープのスタッフからは〈僕の持っている79年から今までのレコード・コレクションを全部1枚に詰め込んだみたい〉って言われたよ。でもそのまま真似たわけじゃない。とにかく自分のインスピレーションを信じて自分のやり方で、アタマのなかにある音のヴァージョンを作ったんだ。かしこすぎない感じがすごく気に入っているよ」。

 ポスト・パンクってショボいものでもあるわけです、もともとは。でも今はリヴァイヴァルだからそれなりな学習があって洗練されたものになっている。なのにウェザオールは違うんですよ。ショボさ=DIYな精神性も引き受けちゃってるのです。プライマル・スクリームとかに声かけてもっとウェルメイドな音楽を作ることはできたはずなのに、その手の〈ええかっこ〉は大嫌いなんですね。ゲストも友達以外入れない。だからプレイグループとかのディスコ・パンク好きな最近の若者がこのアルバムを試聴したら、なんか拙くてがっかりしちゃうかもしれません。キース・テニスウッドの弾くベースとか笑っちゃうくらいボロボロだし。でも、だからこそ嘘がなくてカッコイイと思いませんか?

「有名人をゲストに迎えると、彼らは自分のアイデンティティーを必要以上に持ち込んでくる。そうなると、もう僕の音楽じゃなくて、彼らの所有物になってしまう。だから俺はゲスト・アーティストを使うのが嫌いなんだ。となると自分で歌うしかなかった(笑)。参加してくれたドラマーも、みんな僕らが曲を作っている時にスタジオに遊びにきていたりしたヤツばかり。そのおかげで今回のアルバムはわざとらしさのない自然な仕上がりで、ダークだけど楽しさとか自由な心も兼ね備えたものになっていると思う」。

 ちなみにシングル・カットされる“Sex Beat”は、80年代に活躍したサイコビリー・バンド、ガン・クラブのカヴァーです。

「ガン・クラブは大ファンなんだ。ライヴも観たことがあるし、ジェフリー・リー・ピアス(リーダーだったが現在は故人。もともとはパンク系の音楽ライター)の書いた本も読んだ。数年前にその本を読んで、また彼らの曲をDJでかけるようにもなったんだ。特に“Sex Beat”はナイスだってことに気付いて、カヴァーすることにしたんだ」。

 50年代のロックやロカビリーの一部には、たとえばジョン・ウォーターズやラス・メイヤー、あるいはデヴィッド・リンチがあきらかにしたようなバッド・テイストだったりゴシックだったりする世界観があります。ブルーズとパンクをミックスさせる形でそれを音楽で表現したのが、かつてのクランプスやガン・クラブでした。不良音楽好きのウェザオールは、『From The Double Gone To Chapel』でこのあたりの感覚をポスト・パンクやいまのクラブとミックスしようとしたのかもしれません。

▼文中に登場するアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年06月17日 14:00

更新: 2004年06月24日 19:18

ソース: 『bounce』 254号(2004/5/25)

文/丹羽 哲也