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インタビュー

The Neptunes(2)

人を退屈させたくない

『The Neptunes Present...Clones』はスター・トラック勢に加え、ジェイ・Z、バスタ・ライムズ、リュダクリス、ネリー、スヌープ・ドッグ、N.O.R.E.、オール・ダーティー・バスタード、ナズ、ジェイダキスといったネプチューンズと縁の深いラッパーで構成されている。このなんとも贅沢な陣容が実現できるのも、彼らが今をときめく人気アーティストに決定的な楽曲を提供してきたことの確かな裏付けになるんじゃないかと思う。そんなネプチューンズの凄まじい創造力の根底にあるのは、「人を退屈させたくないんだ。毎回違うことを経験してもらいたい」(ファレル)というクリエイターとして至極真っ当な衝動だったりする。

「〈Clones〉というタイトルにしても、別に俺たちの音をパクる奴らに対して向けたわけじゃない。自分たちが常に新しいものを生み出し続けて、自分のクローンを作ったりしないようにするための決意表明なんだ」(ファレル)。

「周囲からカッティング・エッジな音を要求される以上に、俺たちがそういう音を作ることが好きなんだ。同じことをやってたら飽きちゃうしね。新しいサウンド・エフェクトを採り入れたり、冒険することが好きなんだよ」(チャド)。

 98年にノリエガの“Superthug”で広くその名を知らしめてから現在に至るまで、新しいレヴェルを示唆するような局面は何度かあったものの、基本的にネプチューンズが使う音のパレットは限られているし、改めてディスコグラフィーを確認してみても、ダンスフロアを一撃で興奮の坩堝に叩き込むような曲は意外に少なかったりする。それなのに、彼らのサウンドに何度リピートしても疲弊してこない耐久力が備わっていて、クラブに出掛けてみても一晩のプレイ・リストにおけるネプチューンズ作品の占有率が群を抜いているのは、どうも話の辻褄が合わない気がする――でも、上手く言葉に託すことは困難かもしれないけれど、ファレルのファルセット・ヴォイスを全編にフィーチャーしたスムーズ・ファンク“Frontin'”のシンプルなビートに身を委ねていると、その疑問も一気に氷解してくるんじゃないかと思う。

「いろいろな音楽からエッセンスを採り入れているんだ。なにを使うかじゃなくて、どう使うかが大切なんだよ」(ファレル)。

 それにしても、カーティス・メイフィールドのナメた物真似みたいなファレルのヴォーカルは、いまやプロデュースしたアーティストからフックで歌うことを懇願される〈時代の声〉にまで成り上がってしまった。こうした現状を、果たして当のネプチューンズはどんな思いで眺めているのだろうか? 〈Clones〉をリードするシングル“Frontin'”は早くもチャートの上位に食い込み、NYのFM局でも軒並みヘヴィー・ローテーションを獲得している。

「まさかキッズが俺の声を真似て歌うことになるとはね(笑)。そんな事態が起こるなんて思ってもみなかったよ」(ファレル)。

 チャック・ベリーがギターを弾きながらダック・ウォークを披露してみせたその昔から、そもそもポップ・ミュージックなんてものはジョークの積み重ねで成り立ってきたようなものなのかもしれない――ファレルとチャドが他の誰よりも音楽を楽しんでいるように映るのは、つまりそういうことなのだろう。今度のネプチューンズも最高だ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年09月04日 13:00

更新: 2003年09月18日 17:01

ソース: 『bounce』 246号(2003/8/25)

文/高橋 芳朗

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