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インタビュー

Foo Fighters

彼らの作品に対して、疾走感と豪快さの説明はもはや必要なかろう。ラフさを全面に出したサウンドから浮かんでくるのは、ひとつのキーワード──『One By One』。それは個と個を結ぶコミュニケーションの復活!!

答えは簡単。音楽は楽しむもの


フー・ファイターズに新たな春到来! いや、これはむしろ真夏のむせ返る生命の匂いか。3年ぶりとなる新作『One By One』は強烈なエネルギーをブチまける。脈打つビートは永遠のロックンロール讃歌、轟くファズ・トーンは不屈の血、全身全霊で絞り出す声は無礼講のカタルシス。ロックンロールを愛しさの限りに抱きしめた一枚となった。

「俺らのいちばんいいところが詰まってると思う。ファーストからあったエモーショナルでロマンティックなものや、複雑で不協和音が多いギターとか、アグレッシヴなドラム・プレイ、あと耳と心の両方を虜にするフック(笑)。こういうのをいままでの2倍の音量でプレイしてるんだ。作りながらいちばん考えたのは、全部の曲をライヴでプレイできるものにしたいってこと。前作はメロウな曲が多かったじゃない? 自分たちのスタジオを初めて作ったってこともあって、スタジオでの実験に重点を置いたんだよね。でも、その後ツアーに2年間出てわかったのは、俺がバンドをやってるなかでいちばん好きなのはライヴなんだってことだったんだ。だからライヴでやりたくない曲をレコーディングしても意味ないって思うようになったんだよね。このアルバムの音も、時々早くなったり、間違ったり(笑)、まあ結構ラフなんだけど、そのぶん生々しいエネルギーに溢れてるんじゃないかな」(デイヴ・グロール、ヴォーカル:以下同)。

迷いなく鳴らされているこの音からして、今作の制作はすこぶるスムーズに進行したかのように思える。だが実際は、一旦レコーディングしたものを無情にもすべてボツにしているのだ。なぜ?

「作業を始めたのは去年の10月なんだけど、最初に考えたのは〈壮大なサウンドを実現したい!〉ってことでね。いろんな機材を試したりしたよ。でも、そんなこと延々3、4か月やってもぜんぜん冴えなかった。最終的に気づいたのは、壮大なサウンドってのはミュージシャン自身や、プレイ自体に宿るもんなんだってこと。あと、部屋の中にずっといて陽に当たらないのは良くない。俺、どんどん陰気になっちゃって(笑)。だから話し合って、充電期間をおくことにしたんだ。で、みんなそれぞれ別プロジェクトに入って、俺はクイーンズ(・オブ・ザ・ストーン・エイジ)でドラムを叩いたわけ。違ったことやって良かったよ。〈自分はなんで音楽をやるのか?〉ってことが改めてわかったから。答えは単純さ、音楽は興奮するため、楽しむためにやるんだ」。

デイヴがクイーンズでドラムを叩いていたのにはこういう事情もあったのだ。しかし、ニルヴァーナ消滅から力強く立ち上がり、堂々たる足跡を刻み続けてきた彼からすると、こういう煮詰まり方は異例のことだったのでは?

「うん。こんなの初めて。ニルヴァーナでドラム叩くのは俺にとって凄く自然なことだったし、フー・ファイターズのファーストなんか5日間で録っちゃったからね。こんなに不安になったことはいままでなかった。〈老醜を曝すくらいなら若くして死にたい〉とかよく言うじゃない? 〈俺もロックやるには歳取り過ぎたのかな?〉ってホント思ったよ。現役退いて猫のエサのCM音楽でもやろうかって考えたくらい(笑)。でも、スランプを乗り越えたことで、〈俺は死ぬまでロックをやり続けるんだ!〉って再確認することができたね。音楽って、人生の全部ってことではなくて人生の一部なんだと思うよ。そういう風に気楽に考えるようになったら、死ぬまでできそうな気分になってきた(笑)。ニール・ヤングとかトム・ペティも気楽に構えてるからこそ、いい音楽を生み出し続けられてるんじゃないかな。彼らも俺と同じで、30過ぎに更年期障害みたいなもんを体験したのかもね(笑)」。

話の饒舌さから、最近の彼の充実ぶりがよくわかる。そしてその自信がサウンドだけでなく歌詞にまで及んでいるのも、非常に目を惹く変化だといえよう。

「歌詞が気持ち良く書けたのも実は初めて。俺って結構内面を隠すほうだから、あんま歌詞を書くのは自信ないんだよね(笑)」。

追い込まれた状態で歌詞を書き上げることが多いせいか、自分がなにを歌ったかを後々冷静になって初めて認識するパターンが多いらしい。そんな事情もあって、歌詞について具体的に言及するのを概して苦手としているデイヴ。だが、今作に関してはおぼろげながらも一貫したトーンを見い出しているようだ。

「ロマンティックな気分が凝縮されてるのかな。それはやっぱり歌詞を書いてたときの俺の気持ちだよ。自分を愛してる人との距離とか、情熱が反映されてるね。いまアルバムを思い返してみると、冒頭はなにかを探し求めてる状態で、最後はなにかを見つけたんだけど、ふたたびなにかを探し求めてる状態に行き着いてるのかな。たぶん俺は満足してるんだけど、まだもっともっと行きたいって気持ちがあるんだろうね」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年10月31日 16:00

更新: 2003年02月13日 12:12

ソース: 『bounce』 237号(2002/10/25)

文/田中 大