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インタビュー

Coldplay

学生寮の一室で生まれたデビュー作が世界規模での大ヒットを記録。もはやUKロック・シーンには収まりきらない存在となったコールドプレイがセカンド・アルバム『A Rush Of Blood To The Head』を完成させた!!



2000年の夏、薄暗い会場でコールドプレイを観た。うだるような暑さとねっとり纏わりつく湿気のなか、彼らが音を鳴らした途端に空気が変わった、ような気がした。生温かい空気はそのままだったが、輪郭の曖昧なギターの音色が揺らめく水のようで、巨大な水槽のなかにいるような錯覚に陥った。そう、まるで水族館にいるみたいに。

その年に発表されたファースト・アルバム『Parachutes』は近年のロック・アルバムとしては異例のロングセラーとなり、全世界で400万枚を超えるセールスを記録した。彼らの叙情的なメロディーがヨーロッパや日本で受け入れられるのはともかく、アメリカでイギリスの新人バンドがプラチナ・ディスクを獲得するのは極めて稀だ。もちろん、地道なツアーがあってこその結果なのだが、彼らのサウンドには特に派手な仕掛けがあるわけでもなく、声高に勇ましいメッセージを叫んでいるわけでもない。その繊細なリリシズムやUKバンド特有のメランコリズムが世界中の人々の心を捉えたのだとする意見に異論はないが、コールドプレイの音楽がこれだけ多くの人々に、とりわけアメリカで受け入れられた理由は、憂いを含んだメロディーの裏側に隠された楽観主義と率直さにあるように思う。

コールドプレイの歌に登場する主人公たちは、あまりハッピーとは言いがたい状況にいる。しかし彼らは嘆きも逆らいもせず、他人のせいにすることもない。淡々と〈結局僕らは変われないし、同じことを繰り返すのだろう〉と呟きながら〈木の家に住んで、たくさん友達を作りたいな〉なんてささやかな夢を持っていたりする(“We Never Change”)。〈僕が悪いのなら謝る〉と素直に頭を下げる(“Life Is For Living”)。〈故郷を守るためにみんな疲れ果ててしまった、けれど僕らが住んでいる世界は美しい〉と思える心のゆとりがある(“Don't Panic”)。彼らの言葉が、現実離れしたアメリカ的なショウビズ・ファンタジーよりも遥かに誠実に響くのは当然といえば当然かもしれない。そしてそれは、ありのままでいることを信条とする彼らの姿勢にも重なってくる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年09月05日 15:00

更新: 2003年02月13日 12:11

ソース: 『bounce』 235号(2002/8/25)

文/岩田 祐未子