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インタビュー

Korn(2)

〈怒り〉は楽器と同じだ

こうして達成された新生コーン・サウンドの核となるのは、ジョナサン・デイヴィスのヴォーカルである。そもそもコーンの最大の魅力は、トリッキーなギター・プレイ、ネジ曲がった音色、重低音変形リフやスラップ・ベースのコンビネーションといった演奏面もさることながら、深い傷とルサンチマンを抱え懊悩するジョナサンの孤独の情念、その結果としての暴力的なまでのエモーションの爆発にあった。曲の途中で感情が昂ぶり嗚咽してしまうショッキングな“Daddy”(『Korn』収録)の異様な衝撃こそが、初期コーンを象徴している。

 今作の取材で会ったジョナサンは血色も良く、満ち足りた状態に見えた。一見、時の経過とともに深く負った傷は癒え、孤独の情念は風化していったようでもある。前作がそうであるように、今作でも初期のような闇雲な感情の爆発はない。だがそのような見せかけとはちがうフェイズで、彼の表現がさらに深まっていることはあきらかだ。これまで以上に強い怒りと憎しみ、孤独に満ちた歌詞を見ても、彼を突き動かすエモーションが少しも衰えていないことがわかる。

「自分の過去の経験を歌詞にするのは、もう終わったことだ。でも強い痛みを感じてたときの感情は克明に覚えている。俺にとって〈怒り〉は楽器と同じ。それを使って歌詞に感情を込めていくわけさ。俺はいつも音楽に対して正直でありたい。そうやって本当の自分をさらけ出しているんだと思う。俺の音楽には小さなころになにかを失ったという恐怖が、怒りとともにいまでも表現されていると思う。歌うことで、失ったものを埋めたいと思うんだ」(ジョナサン・デイヴィス、ヴォーカル/バグパイプ)。

 愛する家族があり、金銭的にも恵まれ、バンドも順調。なにも憂うもののない状況にいるジョナサンは、それでも絶望と孤独と怒りを歌い続ける。なぜなのか。

「どんなに恵まれた生活でも、金で全てが
買えるわけじゃない。どんなに完璧な人生でも絶えずなにかが欠けている。そこに俺は焦点を合わせるんだ。可愛い子供がいて、いい家族にも恵まれているけど、それでも落ち込むことはある。もうこんな世界やめてしまいたい、全てから逃げたい。息子に対する責任とか言い訳から抜け出して、どこかほかの場所に行きたいってね。こんな状態なら死んでしまいたいって思ったことも何度もあるよ。人間にはそうした狂った部分が絶対あると思うんだ。でも誰もそのことを言おうとしない。俺はあえてそれを言っているだけさ」(ジョナサン)。

 人間なら誰もが持つ暗黒面にあえて目を向け、表現していくジョナサン。そこには確かに人間存在の真実がある。初期のころはただ私的な感情をぶちまけるだけだった彼が、そうした感情を〈作品〉という普遍的な共通言語として昇華する術を身につけた。だから初期のような嗚咽も絶叫もないこの新作が、こんなにも聴き手の胸に深々と突き刺さる。彼は満足そうにこう言った。

「ここまで来れてすごく幸せだ。俺たちみんな、あらゆる点で成長している。君の言うとおり、確かに次のレベルに到達することができたと思うよ」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年06月06日 17:00

更新: 2003年03月03日 21:17

ソース: 『bounce』 232号(2002/5/25)

文/小野島 大