英国音楽のエキスパート、デイヴィスが初演者LSOと挑んだ渾身の力演
ウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」
巨匠デイヴィスによるLSO Live新アルバムはウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」。作曲者歿後25周年を迎えた2008年9月に本拠バービカンホールで行われた演奏会の模様をライヴ収録したものです。
■英国音楽のエキスパート、デイヴィス
2006年より楽団創設以来6人目となるLSOのプレジデントを務めるコリン・デイヴィスが、LSO Liveレーベル立ち上げからベルリオーズやシベリウスと並び、力を注いできたのが自国イギリスの作曲家たち。デイヴィスが折に触れて語っていることからも知られるように、自国の音楽に傾ける情熱にかけては並々ならぬものがあり、エルガー、ホルスト、ブリテン、ティペット、マクミランと、そのディスコグラフィはきわめて高水準の出来ばえを示していました。
■ウォルトンの傑作「ベルシャザールの饗宴」
「ベルシャザールの饗宴」は、当時22歳の若さで「ファサード」を発表して一躍人気を得て以来、それまで英国楽壇では異端児としてみなされていたウォルトンが、イギリス音楽界きっての保守主義の牙城である合唱音楽祭に挑む決定打として用意したオラトリオ。旧約聖書の「詩篇」と「ダニエル書」に基づき、オズバート・シットウェルが簡略化したテキストはおおまかにいって、次のとおりです。
バビロニアにより捕囚の身となったユダヤの民は嘆き悲しんでいる。バビロニアの王ベルシャザールは、ユダヤ人の神器を用いて異教徒の神々を讃えて、ヤハウェを冒涜した。すると、饗宴ののちに奇蹟が起こり、ベルシャザールは死に至り王国は滅亡。ユダヤの民は自由を取り戻し歓喜の歌声を上げた。
ここで物語を描くにあたり、ウォルトンはユニークな仕掛けを施しています。
■大規模で特異な楽器編成
ウォルトンが指定した楽器編成は破格ともいえるもので、まず、通常のブラス・セクションとは別に、ステージ上と裏に分けて2群のバンダ(各3本のトランペット、トロンボーンに各1のチューバ)を配置。これはベルリオーズの「レクィエム」を引き合いにトーマス・ビーチャムがウォルトンに提案したとも云われ、加えてハープ2・チェレスタ1・オルガン、それにティンパニを含む総勢6名の打楽器群も動員。これらが豪華絢爛のスペクタクルを盛り上げるいっぽうで、アルト・サクソフォンなども起用され、ウォルトンが関心を寄せていたジャズの影響ものぞかせます。さらに、カギとなる合唱の扱いも凝っていて、ユダヤの民とバビロニアの民衆、さらには物語の語りを描き分けるため、混声四部合唱2組にバリトン独唱が採用されています。このあたり、地元オールダムで聖歌隊指揮者と声楽教師を務める父に見出されて、オクスフォード・クライスト・チャーチ聖歌隊学校に入学した経歴や、少年時代より合唱曲を作曲してきた経験が、遺憾なく発揮された成果とみることもできます。
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発売・販売元 提供資料(2011/01/18)
■20世紀イギリス合唱音楽の傑作「ベルシャザールの饗宴」
当初、BBCより小規模の合唱曲を委嘱され着手しながらも、ウォルトン生来の遅筆のため今日の形にまで拡大した「ベルシャザールの饗宴」は大規模な編成も特徴的ですが、内容の充実ぶりでも際立っています。コーラス・パートに代表される新鮮で生命力あふれる和声法や、ジャズやポピュラー音楽を思わせる錯綜とした楽想やリズムの感覚、のちにサントラも手がけるウォルトンの先駆けとも取れるゴージャスをきわめたサウンド、どれをとっても、まったく色あせないどころか、いま聴いてもかえって新しさを感じさせるという点にも驚かされます。なにより聴き応えのすることから、ウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」といえば、エルガーの「ジェロンティアスの夢」以降に書かれたイギリス合唱音楽のうちで、最も画期的な作品として、とくにイギリス本国において高い人気を獲得しています。なお、本作についてウォルトンはオラトリオというよりは3楽章の合唱交響曲と考えていた旨のコメントを残していることも、作品を理解する手掛かりとして興味深いエピソードといえるでしょう。
■LSOが初演を手掛けた「ベルシャザールの饗宴」
ウォルトンは1948年から1957年にかけてLSOの第2代プレジデントを務めており、その在任中LSOはヴォーン・ウィリアムズやブリス、さらにはウォルトンよりも若い世代のブリテン、ティペットといった自国の作曲家たちの擁護に努めました。LSOは「ベルシャザールの饗宴」を、1931年10月8日にリーズ音楽祭においてマルコム・サージェントの指揮で初演していますが、これは同時にまた、LSOとともに波乱に富んだ歴史を歩み、身銭を切って特別のリハーサルを付けた、トーマス・ビーチャムにとっても云うまでもなく重要な初演でした。1951年に、英国博覧会の一部として行われた、LSO創立47周年記念演奏会でもサージェントは本作をふたたび指揮しています。ほかならぬウォルトンもLSOと、自身70歳のバースデイ・コンサートであった1972年3月28日にロイヤル・フェスティヴァル・ホールでたった一度だけ本作を指揮しています。さらに、この翌日と翌々日、1972年3月29、30日に、70歳の誕生日を迎えたばかりの作曲者立会いの下、LSOはアンドレ・プレヴィンの指揮で「ベルシャザールの饗宴」をセッションで初録音を果たしています。こののちLSOは1988年にも本作をリチャード・ヒコックスの指揮でセッション録音しています。
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■デイヴィスによる「ベルシャザールの饗宴」
かつてウォルトンがそうしたように、今ここにまたデイヴィスも英国音楽の普及に熱い取り組みをみせるそのひとり。「ベルシャザールの饗宴」が取り上げられた2008/09年のシーズンでは、シリーズ「継承者と反逆者の声(The Voice of Heirs & Rebels)」と題して、デイヴィスとLSOはほかにもエルガーの「海の絵」やヴォーン・ウィリアムズの交響曲第4番を演奏しており、これらの公演に寄せてコリン・デイヴィスは次のように述べています。
『モーツァルトやストラヴィンスキーと同様に、ヴォーン・ウィリアムズとウォルトンもまだ生きていた間はとても人気がありましたが、亡くなると、彼らに対する関心は低下しました。結局、新しい世代が彼らの作品に才能の迸りを見つけ出して、ふたたび彼らの作品に取り組み、普及させるということです。』
こうして巨匠デイヴィスのもと、「ベルシャザールの饗宴」では、ガーディアン紙ほかのレビューがこぞって伝えているように、好調LSOの誇るブラス・セクションのアンサンブルをも凌ぐほど、圧倒的な存在感をみせたのがロンドン交響合唱団でした。過去2度のレコーディングに参加した記憶が受け継がれているのでしょうか。とにかく表現のレンジがいたって広く、ときにしんと透明で瞑想的であり、ときに黙示録的な破壊力で迫り、やがて歓びの美しいハーモニーを聞かせて、この傑作にかなった理想的な歌唱で応えています。バービカン・センターの短めの残響もこうした大編成の作品ではむしろプラスに働く傾向にあり、切れ味と迫力あるサウンドを実現。モニュメンタルな作品のすぐれた演奏にふさわしい仕上がりとなっています。LSOはやはり初演を手がけた自負と強みからか、上記に挙げたように「ベルシャザールの饗宴」のすぐれたアルバムを過去にも残していますが、録音がきわめて優秀なこともあって、このたびのデイヴィス盤は今後本作のスタンダードとしてのポジションを獲得し得る可能性も十分と思われます。
■2005年収録の「交響曲第1番」をSACDフォーマットでリカップリング
アルバム後半には、「ベルシャザールの饗宴」と前後して作曲され、同様にウォルトンきっての人気作である交響曲第1番をカップリング。こちらの音源は2006年にリリースされたものと同一の内容になりますが、SACDハイブリッド仕様盤(LSO0576)に限ってはすでに2年近く廃盤で入手難の状態が続いていたので、こうした形でのカタログ復活はなによりといえるでしょう。
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発売・販売元 提供資料(2011/01/18)