『Icky Thump』(2007年)以来、活動を休止しているホワイト・ストライプス。ワールド・ツアーがキャンセルされ、メグ・ホワイトの精神状態がよろしくないというウワサが流れたりして、バンドの行方には不穏な空気が漂っていた。でもそんな暗雲を蹴散らすように、ジャック・ホワイトはサイド・プロジェクト、ラカンターズの2作目『Consolers Of The Lonely』(2008年)を完成させてツアーに出動。有り余るクリエイティヴィティーを発散させていたわけだが、そのツアーで共演したキルズのヴォーカリスト=ヴィヴィことアリソン・モシャートを誘って、今度は新ユニットを始めたのである。それがこのデッド・ウェザー。アリソンとジャック以外のメンバーは、ジャック“リトル”ローレンス(グリーンホーンズ〜ラカンターズ)とディーン・フェティータ(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ)だ。そして、意気投合した4人は勢い(=初期衝動)に任せて、あっという間にファースト・アルバム『Horehound』を完成させた。ホワイト・ストライプスではミニマムな編成でラウドなロックンロールを、ラカンターズではルーツ・ミュージックに根差した滋味溢れるバンド・サウンドを展開してきたジャックが、デッド・ウェザーではドロドロにブルージーでネバネバにサイケデリックなサウンドを炸裂させている。また、アリソンの歌声もキルズの時よりもワイルドで淫ら。ストリッパーのポール・ダンスの如く肉食系ビッチの匂いを放っている。その熱い歌声にえげつなく絡むのがジャックのギターで、ラカンターズよりストライプスに近い爆発力を発揮して暴れまくりだ。そういえば、キルズもストライプスも男女2人組。バンド不倫ともいえるジャック&アリソン・カップルの掛け合いはどこか背徳めいていて、ストライプスの緊張感とは違ったダークな情念がアルバムに渦巻いていたり……。本作のツアー後、ストライプスはついに新作のレコーディングに入るそうだが、肝心のメグはギタリストのジャクソン・スミス(パティ・スミスの息子)と再婚したばかり。果たして、デッド・ウェザーが今後のストライプスに与える影響はいかに? いろんな意味で波乱に満ちた本作は、血の色に染まったロックンロールがドシャ降りだ。
bounce (C)村尾泰郎
タワーレコード(vol.312(2009年07月25日発行号)掲載)