journeyでもtravelでもtripでもflightでもroadでもなく、voyage。旅人という名を持った歌い手が物語る、航海。
堅い陸地から切り離され、抗いがたい潮流に翻弄されながら続いてゆく(あるいは終わってゆく)航海について。
戦乱、疫病、貧困、虐待、差別、故郷喪失について。すなわち流転について。
航海のみならず、停泊について。本来なら動けたはずの時間に、錨を下ろしての静止を強いられる、そのあいだに大切なものを失い、奪われてゆくことについて。
確かなものから切り離され、酷たらしい歴史に翻弄されながら生きてゆく(あるいは殺されてゆく)無数のたよりない命が、世界から無視され、忘れ去られながら、そこに確かに在るということについて。
歌うよりほかに生きる術を持たないあまりにも無力な人間-「たびびと」が、それらのかけがえない他者の航海から目を逸らさず、懸命に、ひとつずつ物語る。
捧げものとしての音楽。そのさきの未来に、ささやかな幸を祈り、鎮魂を願う。その歌声は、時に哀傷や怒気を帯びながら、不思議なほど人なつこく、そして優しい。
喪われたものへの素晴らしいラブソング『ドンセイグッバイ』が終わり、傷つきながら生きるものたちへ語りかける『If you just smile』が始まる前の、一瞬の沈黙が好きだ。