録音状態は同じ1963年ドイツオペラ来日公演の《フィガロ》や《フィデリオ》と比べても良好とは言えず、とくに歌手の声が遠い。しかし遥か極東の地にはじめて《トリスタン》を伝えんとする演奏者やスタッフの使命感はビンビン伝わってくる。特に男声陣(バイラー、ナイトリンガー、グラインドル)の熱演が素晴らしく、遠隔地の公演であっても全く気を抜かないところがどこぞの三大テナーなどとは大違いだ。この歌手たちの気迫と33歳の新鋭マゼールの闘志がぶつかり合い、ベームの《フィデリオ》とは一味違う《トリスタン》の凄演が生まれた。第二幕に加え、第三幕のトリスタンのパートにもカットがあるのが残念だが、CD化を心から喜びたい。