メロス弦楽四重奏団がベートーヴェン全集を成し遂げた後の、彼らの成就したアンサンブルの至高点の素晴らしさを堪能できる名盤。際立った力感と同時に抑制の効いた情緒表現も楽しめ、さらに全体的にはシューマンとブラームスの音楽がもつ、おのおのの品格が顕わになっている。音楽の動きの起伏が大きいところも決して騒々しくならず、そして緩徐楽章は言うまでもなく清澄な響きに満ちている。
シューマンの弦楽四重奏曲を、彼の作曲の中で重きを置く人はあまりいないだろうが、この演奏で聴いてみると美点の多い佳作だと言える。かつてのポリーニが鋭利な技巧でシューマンの不安定ながらも真摯な気分の揺らぎを明らかにしたのにも似て、完璧なアンサンブルがもたらす鮮烈な表現がいくつもあって素晴らしい。シューマンの音楽にときおり現れる偏執的な音の動きにも切迫感があふれている。
ブラームスの室内楽が好きな私だが、その中では弦楽四重奏曲はやや晦渋で、未だに愛好するまでに至っていない。しかしメロス弦楽四重奏団による演奏では、少なくともより以前の名四重奏団によるものよりもリズムが立っているぶん、新鮮で聴きやすいと思う。また全体的には情緒に停滞しないメリハリのある推進力も、緊密なアンサンブルによって達成されていて、第3四重奏曲などでは緩徐楽章の良さが引き立っている。第1、第2四重奏曲もまだまだ聴きこんで、美点を見つけていきたいものだ。