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Bobo Stenson Trio『Indicum』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/01/10   13:13
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:多田雅範(Niseko-Rossy Pi-Pikoe)

比類なき美意識の結晶体

美に痺れる。美メロという呼称は平たいと思う。美しいピアノ・トリオといえば90年代ボボ・ステンソン・トリオ『ワー・オーファンズ』と00年代ジョン・テイラー・トリオ『ロスリン』を刻印したECMレーベルの王権は揺るがない。ボボ・ステンソンは70年代ヤン・ガルバレクのグループを支えた後、自国スウェーデンでフォークやトラッドの試行を過ごした。90年にチャールズ・ロイドのサイドとしてシーンに再浮上、ベースのアンデルス・ヨルミン、ドラムのヨン・クリステンセンとの自己のトリオを結成した。04年にはドラムをポール・モーシャンにした名作『グッバイ』をものにしている。この2人に叩かせたピアノ・トリオの価値は、ジャズ・ファンは承知しているだろう。08年にはドラムが若きヨン・フェルトになっての『カンタンド』で新境地を開く……。痺れる美には毒が必要なのだが、ステンソンの息も詰まるような下降するラインはさておき、スタンダードはもとより現代音楽やフォークのレパートリーまで、しかしそれをそうと解らせない審美眼も聴く者を幻惑させ続けている。熟成を重ねた美の結晶。前回は3年待ったが、今回は4年振りの待ちに待ったリリース。フォルクローレのアリエル・ラミレス、ジョージ・ラッセル、シニッカ・ランゲランがアレンジするノルウェーのトラッド、スウェーデンの紙幣にもなるカール・ニールセン、ビル・エヴァンス《Your Story》、ノルウェーの作曲家オラ・イェイロ、ドイツのSSWヴォルフ・ビーアマンと一筋縄でゆかない、しかし繊細で痙攣するようなインプロヴィゼーションに満ちた12トラック、気配を交感しあうヨルミンの爪弾き、フェルトの打音。時は止まり、言葉は届かない。タイトルのIndicumは藍色の意、即興3トラックに名付けられた。ステンソンが問いかけた美の方程式は比類のないまま20年、もはやピアノ・トリオという呼称すら野蛮だ。

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