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連載/コラム

冨田勲新制作「イーハトーヴ」交響曲世界初演公演

カテゴリ : EXTRA-PICK UP

掲載: 2012年11月15日 16:44

ソース: intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)

文/前島秀国(サウンド&ヴィジュアルライター)


冨田勲と伝説の愛機MOOGⅢ(1979年)

パペピプ親父と初音ミク、賢治の理想郷で再会なるか!?

冨田勲が、宮沢賢治をモチーフにした《「イーハトーヴ」交響曲》を世界初演する──。そのニュースを知った時、僕はただならぬ興奮を覚えた。ゲストヴォーカルに初音ミクがキャスティングされているからではない。賢治の作品世界が、これまでの冨田の音楽活動にきわめて大きな影響を及ぼしてきたからだ。別の言い方をすれば、明らかに彼はこの交響曲で、自身の活動の集大成を築き上げようと目論んでいるのである。

冨田と賢治の関わりは、冨田がまだ10歳にも満たなかった昭和15年の日活映画『風の又三郎』を彼が見た時まで遡る。それから30年近く経過し、ムーグ・シンセサイザーを日本で初めて輸入した冨田は、子どものための交響詩『銀河鉄道の夜』をムーグによる処女作として作曲し、学習教材用レコードに収録した(1972年)。名盤『月の光』がビルボードチャートに躍り出る2年前のことである。

今回の交響曲には《ケンタウロス祭から南十字へ》という楽章が含まれているが、おそらくこの楽章は『銀河鉄道の夜』の音楽がベースになると想像される。そうして『銀河鉄道の夜』には、その後40年に渡って発展することになる冨田の音楽の方法論とその萌芽が、すでに凝縮して表現されているのだ。いちばんわかりやすい例は、『銀河鉄道の夜』の《鳥捕りのおじさん》という楽章で使われている、ヴォーカロイド的なクセのある音色だろう。要するに鳥捕りを表現しているこの音色は、その後も『月の光』や『惑星』など、冨田のシンセサイザー演奏においてたびたび登場し、俗にパペピプ親父と呼ばれることになる。だから、今回の交響曲に初音ミクが登場するのは、実は不思議でもなんでもない。たぶん冨田は、彼女をパペピプ親父の娘か孫のような存在として見ているのだろう。

冨田が、そうしたヴォーカロイド的表現を手塚治虫の創作の方法論──マンガとアニメ双方──から学んだというのは有名な話だ(パペピプ親父は、ヒョウタンツギのようなキャラに相当する)。キャラだけではない。冨田は、自分の音楽を表現していく際、ある空間の遠近感を出すために、前景や後景といった要素を非常に強調する。これも有名な話だが、彼がテレビアニメ『ジャングル大帝』の音楽を担当した際、高価なマルチプレーンカメラを購入できない虫プロのスタッフが竹のやぐら(!)を組んでセル画を撮影し、四苦八苦しながら遠近感を表現していた様子を現場で見ていた。それが彼の音楽の方法論にどれほど大きな示唆を与えたか、想像に難くない。『銀河鉄道の夜』の《白鳥の停車場》の発展版とも言える、アルバム『宇宙幻想』収録の《パシフィック231》を聴いてみよう。明らかに冨田は、オネゲルの汽車を賢治の銀河鉄道と読み替えているわけだが、そこに原曲にはない踏切の警報音を後景として重ね、さらにドップラー効果を加えて前景の汽車の走行音と差別化することで、見事に汽車の加速感を表現している。これなども、アニメのマルチプレーン的手法を音楽に置き換えた応用例のひとつだろう。だから今回の交響曲で、初音ミクが3Dで出演することの必然性が生まれてくる。彼女は、冨田がこれまで試みてきた遠近表現、もっと言ってしまえばサラウンド表現の象徴的存在を担っているのだ。

話を賢治に戻すと、1989年、冨田は伊藤俊也監督の映画『風の又三郎 ガラスのマント』の音楽を担当しているが、実はそのスコアのかなりの部分が『銀河鉄道の夜』を基にして作られている。それだけではない。冨田は幼少期に見た日活版『風の又三郎』の主題歌《ドードドの唄》(杉原泰蔵作曲)を児童合唱とシンセサイザーのために編曲し、それを伊藤版『風の又三郎』のスコアに用いているのだ。これは単なる転用というより、彼の原体験となった賢治の作品世界を一貫させたいという、表現者としての冨田の強い意志と見るべきだ。おそらく、伊藤版『風の又三郎』のために冨田が書いたスコアは、今回の交響曲の《二百十日の夜》という楽章にも顔を出すのだろう。

だとしたら、冨田はこの交響曲の中で、「青いくるみも吹きとばせ/すっぱいかりんも吹きとばせ」と歌う半音階進行が聴く者に戦慄(旋律?)を覚えさせる《ドードドの唄》を、初音ミクにも歌わせるのだろうか? すべては11月23日の世界初演の日に明らかにされるであろう。

LIVE INFORMATION
冨田勲新制作「イーハトーヴ」交響曲世界初演公演

11/23(金・祝)14:30開演
会場:東京オペラシティコンサートホール(※チケット完売)

出演:大友直人(指揮)日本フィルハーモニー交響楽団、篠田元一(シンセサイザー)
慶応義塾ワグネル・ソサィエティーOB男声合唱団、慶応義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団、聖心女子大学グリークラブ、シンフォニーヒルズ少年少女合唱団
バーチャル シンガー:初音ミク

演奏曲:「イーハトーヴ」交響曲、交響詩ジャングル大帝《2009年改訂版 白いライオンの物語》より、山田洋二監督映画音楽メドレー(隠し剣鬼の爪〜武士の一分〜おとうと)、NHK大河ドラマ《勝海舟》メインテーマ
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