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第3回:ぽこさん編

連載
アイドルのいる暮らし
公開
2012/07/27   15:00
更新
2012/07/27   15:00
テキスト
文/岡田康宏(サポティスタ)


平日のライブ会場やショッピングモールで行われるイベントで、いつも見かける大人の姿がある。けっこういい歳してるけど、この人たちはいったいどんな生活をしているのだろう?

大人のアイドルファンは、アイドルファンであるだけではなく日常を生きる社会人でもある。お金も暇もある大人のオタクには、元気なだけの若者にはない深みと趣きがある。ライフスタイルとしての現場系アイドルファン、大人のオタクの遊び方とは?



今回お話を伺ったのは、ぽこさん(@fewpoco)だ。30代後半のシステムエンジニア。結婚12年目の奥さんと2人暮らし。ブレイク直前のPerfumeを見に初めてアイドル現場に足を運び、その後のアイドル遍歴はAira Mitsuki、ぱすぽ☆、東京女子流、LinQなど。Perfumeファンのクラブイベント「Perfume Night」運営スタッフで、11年6月、ぱすぽ☆のフランスツアーに参加した25名のうちの1人。既婚者にしてガチ恋系。アイドルに限らず、カメラに小説、野球に競馬、フライフィッシングからオンラインゲームまで多彩な趣味を持つぽこさんに話を聞いた。



今のモノノフのノリで「Perfumeはアイドルじゃないから」



現場はPerfumeからですね。もともと完全に在宅派で、おニャン子とかパードル(東京パフォーマンスドール)とかは好きだったんだけど、現場に行くとかは考えたこともなくて。音楽は岡村靖幸と小室哲哉、平沢進がすごく好きだけどライブに行こうとは思わない人でした。

学生の頃はクラブに遊びに行ったり、ディスコの名残みたいなところに行ったり、そういう感じで普通に遊んでいたんだけど、音楽を楽しむならこれでいいじゃん、本人いなくても別にいいじゃん、ライブに行く必要ないじゃんって思っていて。アイドルに関して言えば、完全にテレビの向こうの人だよねって思っていたから。

もともとヤスタカの音楽は好きでPerfumeも聴いていて。ポリリズムでこれはもう完全にブレイクするぞって流れになっていたから、だったら一回くらい握手しに行ってもいいかなと思ったのが最初です。それでフラッと新星堂にCDを買いに行ったら、なんと整理番号1番を引いてしまい、池袋サンシャインの噴水広場でセンター最前に座ることに。それが初現場で、あーちゃんが泣きながら出てきて、のっちが2メートル先で踊っていて、ゆかちゃんが上の方にもレスを配っているのを見て、これがアイドルなんだって。生身のアイドルってすげーなって初めて気づいて。

それからリキッドルームに行って、名古屋は、嫁さんと一緒に旅行のついでにライブも寄って行こうよって感じで行って。当時、ちょうど握手がなくなったタイミングなので、今のモノノフのノリで「Perfumeはアイドルじゃないから」「俺はヤスタカの曲が好きだから」って自分の中でのエクスキューズもあって。

そのあと、Perfumeのいわゆる珍古参(※1)の人たちと仲良くなって。で、今のパッセン仲間(※2)じゃないけれど、そういうコミュニティに入って行ったら、これは楽しいなと。変な人がいっぱいいるし(笑)。頭のおかしい人から、すごく頭の良い人たち、いろいろと才能のある人たちもいて、だんだん現場も楽しいけど、オタも楽しいよねみたいな空気になっていって。
*注*1 珍古参・・Perfumeの古参からポリリズム新参あたりまでの常連組。いわゆる厄介で目立っていたひとたち。2ちゃんねるのPerfumeスレで命名された。
*注*2 パッセン仲間・・ぱすぽ☆現場では、ファンのことを「パッセンジャー(略してパッセン)」と呼ぶ。

リキッドルームのキャパがおよそ千人でライブ後の反省会を50数人でやっているんで、濃い人達がみんな来ているんですよ。 この人と仲良くなったら絶対楽しいよなと。そう思って積極的に話しかけたりして仲良くなっていったんですよね。ネット上で名前を知っているような人たちがたくさんいて、なんでこの人たちがここにいるのって。それはPerfumeがどうのこうのいうよりも、単純に楽しそうな人たちだなと思ったし、今翻って見ると、そういう人たちをひきつけているPerfumeってすごいなと。

その後は、Perfume Nightというクラブイベントのスタッフを1回目からずっとやっていて。1回目は08年の2月。恵比寿の クラブで雪にもかかわらず69人も来てくれて。最後09年6月のvol.5は400人まで行きました。普通にプロの人もやるお店なんですけど、そのお店の年間集客ナンバー1になるくらい盛り上がって。最後のときはちゃあぽん(西脇彩華・あーちゃんの妹 )をゲストに呼んで、あーちゃんも仕事だから来れないけれど、本当に行きたかったって言ってくれたらしくて。

Perfumeはそのまま追いかけながら、初めて接触のあるアイドルとして推したのはAira Mitsuki。Perfumeは握手はサンシャイ ンの1回だけだったから、握手があって、話をして認識してもらうというアイドルを推したのはAiraが最初。一番のベースは 曲が良くないと絶対ダメで、アイドルに限らず、アーティスト好きになるのも曲が第一。



既婚者なのにガチ恋系



ぱすぽ☆はインディーズのころからライブは見ていたんだけど、ハイタッチか全員握手に行くくらいで、そんなにがっつりは行っていなかったんです。だけど、少女飛行のときのわけのわからない空気に飲まれ、制服を来てメガネをかけて出てきたあいぽん(根岸愛)を見て初めて個別握手に行ってしまってからはガタガタガタっと(笑)。ゴールデンウイークの最後、3日間行っただけなのに38枚買ってるから。Perfumeで最終便ギリギリに飛びついた。俺、握ったことあるぜって言える。その経験があったので、ぱすぽ☆も発売前日くらいになって、これは行くしかないと。

個別握手って女の子によって目の前にできる列の長さがぜんぜん違うし、それを本人もわかるわけだから、かわいそうだなと思っていて、全員握手しかいかないって思っていたんだけど、少女飛行のあいぽんのメガネですべてが変わってしまった。初めて見に行ってから初個別まで半年くらいあるんだけど、一度行ったら、まあ楽しいからいいかって(笑)。

Perfumeのときの友達に既婚者なのにガチ恋系って言われたけど、まさにそれだなと。そこは全然否定できません。でもぱすぽ☆で個別の楽しさを知ってしまったから、逆にほかの現場では接触にはこだわらなくて、女子流の握手とかは全員に一度さらっと行けばいいやくらいで。

根岸さんはホント怖いんですよ。勘違いさせるプロ。初めて個別握手行った時に「はじめまして」って言われたんですよ。だから「いやいや、全員握手では2回来ているんだよ」って。で、ぱすぽ☆の現場がそういう現場だとは知っていたので、そういう遊びをしようと思って「ちゃんと覚えてよ」って言ったんですよね。

その日は1部と2部があって1部は握手券1枚しか持っていなかったからそれで終了。2部で行って「ちゃんと覚えてる?」って聞いたら、まず「あそこで見てたよね」から入って「名前教えて。Twitterをフォローするから」。「フォローしているし、フォローしてもらってるよ。このアイコン」ってiPhoneを見せたら「知ってる、知ってる」って。そういうやり取りが楽しくて、何度も行くようになって。

UDX(※3)のときはサインがあったから、何回か行って名前を書いて覚えてもらって。手を変え品を変え、どうやったら印象付けるやり取りができるかなとか考えて。何度も回っているうちに、あるとき「誰々のブログに名前出てたでしょ?」って言われて「ちょっと待て、俺それ読んでない」って。あとで確認したら、あるファンのブログに自分の名前が出ていて、根岸はそれをチェックしていたんだよね。
*注*3 秋葉原UDXシアター。秋葉原UDXビルにある172席ほどのホール。ももクロのAKBA5daysや怪盗少女ツアー、ぱすぽ☆の少女飛行ツアーで頻繁に使われた会場。

当時はファンの顔が一通り覚えられる程度の規模だったというのもあるけれど、マメとかマメじゃないとか、そんなレベルじゃなく、なんかもういろいろとおかしいレベルですげーなと。当時、サイゾーのインタビューでファンの人の顔と名前、300人は覚えていますって答えていて、ほんとかよって思っていたんですけど、これは確かに本当だなと。

初めて握手にきたような人だと声のトーンも高いし対応もキャピキャピしているんですけど、常連の人が相手だと声も対応も普通に話している感じで握手でもずっと手を握っていなくて、手を離して普通に話してたり。でもそういう対応の違いを見せることで、常連として認識していることを態度で示してくるんですよね。いかにもアイドルらしい対応じゃなくて、自分の素に近い感じで対応しているんですよって。飲食店とかで常連だと、注文する前からオーダーをわかってくれていたり、ちょっとしたサービスをしてもらえたり。そういうのがアイドルの世界でもあるんだなと。

握手会って接触イベントと言われたりして、経験したことのない人はアイドルと接することが目的だと誤解されたりしていると思うんですけど、実際はコミュニケーションの場で、アイドル本人とどれくらいコミュニケーションを交わせるのか。また何度通っても、いつもありがとうございます、なのか、それとも行くごとに関係性ができていって、対応が違ってくるのか。それで全然変わってくると思うんですよ。

これだけのめり込んでいるのは、あいぽんだからというのがあって、あいぽんはちょっと特殊な部類に入ると思うんです。ぱすぽ☆はみんな特殊なんですけど、その中でもあの子はすごい。パリツアー(※4)に行ったときも、オリコン1位を取ったすぐあとで、ちょっと勘違い気味の子もいたんだけど、あいぽんともりし(森詩織)、ゆっきぃ(藤本有紀美)は全然変わったところがなくて、本当にいつもどおりな感じで普通に話してくれるし対応が良くて。
*注*4 パリツアー・・2011年6月にぱすぽ☆がフランス・パリのJapan Expoに出演する際に実施されたツアー。パッセン(ファン)とクルー(メンバー)が同じ飛行機で渡仏し、同じホテルに宿泊。食事会やJapan Expoのイベント参加以外にも一緒に観光するなど、かなりの時間一緒に行動できた。



行ってつまらないのは仕方ない、行かなくてつまらないのは最悪



パリは発表された日に、Perfumeの頃からの友達が行く気満々の発言をしていて。浜名湖移動教室(※5)になるはずだからって言うんですよ。それは行くかって。完全に乗り遅れてPerfumeにハマった人間としては浜名湖移動教室というのは神話の時代の話なんです。それに行った人がそう云うんならこれは行かなきゃと。行ってつまらないのは仕方ないけれど、行かなくてつまらないのは最悪なので。
*注*5 浜名湖移動教室・・2006年3月18日~19日の1泊2日で開催されたイベント。正式名称は「Perfume 春の移動教室 in 浜名湖」。静岡・遠鉄ホテルエンパイアに宿泊、ゲーム等の交流会が行なわれ、2日目には遊園地・浜名湖パルパルで一緒に乗り物に乗ることが出来た。

向こうでオタ同士が仲良くなるのも間違いないだろうなと。それは実際にそのとおりになったし。パリの後の名古屋遠征のときに、昼飯を買いに行こうって言って歩いていたらパリパッセンしかいなかったんですよ。この間、お台場でLinQを見た後、そのメンバーでご飯を食べに行ったときも6人中5人がパリパッセンだったし。これやばいでしょって。どんだけ俺たち仲いいんだって。

常にアンテナを張っていてフットワークの軽い人って、パリに行こうと思うし、行ってると思うんですよね。今回の取材も、自分としては話をもらった瞬間にやるやるって感じで。普通に生活していたら、こうやってインタビューされてタワレコのサイトに載るってないことじゃないですか。だったら、やってみるかと。結構、それは大きいですね。アイドルとパリに行く経験をする人はそんなにいないわけじゃないですか。じゃあ、行っとくかと。基本的にそういう考え方です。

パリ行きのときは嫁の許可は取りました。普段は友達と遊ぶってことがあまりないんで空いている日は嫁さんと過ごすことが多いし、例えばリリイベだったら土日のどちらかは干して一緒に遊びに行くとかって、バランスはとっていたので。そこは問題なかったですね。ViVi夏は130枚くらい買ったんで、家にCDが届いたときは「馬鹿か」って言われましたけど。

それだけたくさんCDを買ったのは自分としてはゲームの感覚が強い。現実じゃない競争。パラレルワールド的な感覚。ゲームというと失礼な感じだし、人間と人間としては真摯な関係だけど、少女飛行の当時にいたおよそ300人のファンのうち、自分よりも強いオタが250人くらいいて、どうやったらあの子に自分を大切なファンと思ってもらえるか。そういうオタ序列の競争みたいなのがおもしろくて。

ただ、オタ同士が仲良くなりすぎたというのがあって。最初のうちは推し被りを敵視したり、出しぬいてやろうとか競争する意識があったんだけど、パリに行って、ViVi夏のツアーがあって、アルバムのツアーがあって、その間にライバルだったはずのオタたちと普通に仲良くなっていってしまって、あるときからパラレルワールド感がなくなっていってしまったんですよね。握手の待ち時間がひとつの社交の場になっているんですよ。個別の列に並んでいれば誰が誰推しかもわかるし、ループしていて最後の方に残るのはいつも同じ顔ぶれなんで、そういう強いヲタ同士でだんだん仲良くなっていって。

普段、アイドルに使うのは月に1万とか2万とかです。ただ、ぱすぽ☆は別。こんなもんじゃないです。パリにも行っているし、ViVi夏は130枚だし。でも、これでも常連の中では全然たくさん買っている方ではないんですよ。