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第23回――ピッグバッグは最先端?

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2010/12/16   15:03
更新
2010/12/16   15:04
ソース
bounce 327号(2010年11月25日発行)
テキスト
協力/北爪啓之、冨田明宏


ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!



僕は阿智本悟。吐き気がするほど退屈なサラリーマン生活を送っている25歳さ。唯一の趣味といえば最先端のロックを追うことくらい。さてと、もうすぐ定時のチャイムが鳴る頃かな。そろそろオンボロなロック酒場〈居酒屋れいら〉に向かうとするか。マスターのボンゾさんとは音楽観の違いからいつも口論になるんだけど、今日はちょっと企んでいることがあるんだ。この前タワレコで見つけた超ド級な新人バンドのアルバムを聴かせて、古臭いロックばかりを薦めてくるボンゾさんをコテンパンにしてやろうと思ってね♪

阿智本「お疲れ~! とりあえず梅割りとコンビーフね!」

ボンゾ「今日はまた早えな。ほらよ!」

トンッ!と勢い良くカウンターに梅割りのコップが置かれた。

阿智本「ところでボンゾさん、僕は物凄い新人バンドを発掘してしまったよ!」

ボンゾ「あ、そう。俺は別に新人バンドなんて興味ねえしな」

阿智本「まあまあ、騙されたと思って聴いてみてよ!」

僕はカウンターに入り、CDをセットしてプレイボタンを押した。

ボンゾ「オイオイ! 勝手なことするんじゃねえ!……おや?」

激しい太鼓と重いベースの音がスピーカーから流れた瞬間、ボンゾさんは僕を殴ろうと振りかぶった腕を空中で止めた。

阿智本「ヘヘン! どう? 凄くない!?」

ボンゾ「ほう! コイツは……なるほどね」

阿智本「ピッグバッグっていう人たちだよ。この前タワレコで買ったんだけど、この僕が初めて名前を見るバンドだから、きっと超新人だと思うんだけどね」

ボンゾ「(ニヤリ)ふ~ん、こりゃおもしろいな。なかなかイカしたファンク・サウンドだし、フェラ・クティっぽいアフロビートにも色目を使ってやがる」

キターーー! あの偏屈なボンゾさんが新人バンドに好反応を示したぞ! これは〈れいら〉始まって以来の快挙では?

ボンゾ「熱量を感じさせないファンクっつう意味じゃ、カンあたりのクラウト・ロックに似てるな。フリーキーさとお祭り感覚はフランク・ザッパにも通じるし、まあさほど俺の好みってワケじゃないが、悪いバンドじゃねえよ」

阿智本「うわ~、ザッパの名前は出さないでよ! トラウマなんだって(299号より)! もう、ボンゾさんは全然わかってないんだから! サウンドから推測するに、これはNYのブルックリン・シーンから登場したバンドだね。あのへん特有のトライバルなビートが何よりの証拠だよ」

ボンゾ「ほほう。俺にはフリージャズやアフリカ~ラテン音楽を白人ならではのクールな感性で融合させた、いかにもニューウェイヴ期の音って感じがするけどな」

阿智本「やれやれ、これだからボンゾさんはオンボロなんだよ(ため息)。どっからどう聴いても!!!やギャング・ギャング・ダンスに影響を受けたバンドじゃないか!」

すると突然、ボンゾさんは腹を抱えて笑いはじめた。

阿智本「いきなりどうしたの? 何がおかしいんだよ!」

ボンゾ「ブハハ~ッ! もうダメだ、我慢できねえ。おもしろすぎたんで思わず付き合っちまったぜ! あのな~、ピッグバッグは70年代末に活躍したポップ・グループというポスト・パンク・バンドを前身とする、80年代のバンドだよ。つまりコレは30年近く昔の作品ってワケだ」

僕は耳を疑った。そんなバカな!?

ボンゾ「嘘じゃねえよ。その証拠に裏ジャケを隈なく見てみやがれ!」

そう言われてアートワークを見返すと、確かに〈1982〉の文字が! うわ~、何てこった! それじゃ僕はとんでもない勘違いをしてたってこと!?

ボンゾ「つまり、お前がさっき言ってたNYの何とかってバンドのほうが、ピッグバッグの影響を受けている可能性があるってことだ。しかもコイツらはUKのバンドだぜ! たいそうなウンチクをどうもありがとうございます、阿智本大先生。ガハハ!」

阿智本「うるさい、うるさい! バカにしやがって!! こんなCD、ボンゾさんにくれてやる! じゃあね!」

ボンゾ「あらら、顔を真っ赤にして飛び出していきやがった。ちょっとヤリすぎたかな。まあいいや、結局は昔のロックのほうがカッコイイってことだからな。それにしてもシングルのB面曲なんかも追加されていて、なかなか良いリイシュー盤じゃねえか。よしと、久々にカンでも聴くか!」。