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プラスティックマンのブレなき〈どうかしてる道〉――ライヴ・レポ付き!

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2010/12/10   23:08
更新
2010/12/10   23:08
テキスト
文/石田靖博

 

長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!

 

いまやテクノ界において最も影響力のある男といっても過言ではないのがリッチー・ホウティンである。しかし、90年代初頭にその名が知られていたのは、プラスティックマン名義であっただろう。もともとサーキット・ブレイカー、F.U.S.E、アップ!などさまざまな名義を使い分けてきたリッチーではあったが、あのキャラクター・ロゴとリリース量、その内容を含めて、リッチー・ホウティン名義でミックス盤『Decks, EFX & 909』(99年)をリリースするまで、プラスティックマンがメイン名義であった。

プラスティックマンの名を知らしめたのは、何と言っても不朽の名曲“Spastik”(93年)である。リズムのみで構成されていて、スネアの乱れ打ちでピークに達する……と書いてもよくわかんないだろうけど、この曲はリリース当時聴いても、フロアで大盛り上がりのなか聴いても、そして2010年のいま聴いても〈どうかしてる……〉という思いはまったくブレることはないのである。テクノ紳士&淑女の方々は常識以前で知ってるとは思うが、聴いたことのない方はぜひ聴いてもらいたい。たぶん、いままで聴いたことのない音だろうし、これを殿堂入りさせるテクノの懐深さにビビるはずである。

その“Spastik”に続くファースト・アルバム『Sheet One』は、ジャケのデザインでいろんな逸話もあったりするが、音数を絞った、不穏な空気ビンビンの唯我独尊アシッド・テクノこそ当時のリッチー・サウンドであった。続く2作目『Musik』(94年)も『Sheet One』路線の不穏音数極小アシッドであり、テクノ界でのリッチー・ホウティンの地位はさらに向上したのだった。

しかし、そこは生粋の実験くんであるリッチー。96年に1年間かけて毎月シングルをリリースしたシリーズ=〈Concept 1〉はケルン系テクノに影響を受けたクリック的極北ミニマルで、この変化を受けてプラスティックマンとしての久々のシングル“Sickness”(97年)も物音というかパルス化。続くアルバム『Consumed』(98年)はさらに抽象化が進行し、隣の部屋の物音というか、気配のような域に達してしまった。〈Concept 1〉と『Consumed』という実験路線の連打は強力すぎて、ここで離脱する者(筆者含む)も少なからずいたのも事実だろう。流石にヤバいと思ったか、矢継ぎ早にシングル『Hypokondriak/Afrika』(“Afrika”は超カッコ良いトライバル・クリック!)とアルバム『Artifakts (BC)』(98年)をリリースする。この2作はクリック・ハウス的なサウンドで、いま聴くと非常にカッコ良いのだが、〈コンセプト1〉~『Consumed』の衝撃(〈CCショック〉と勝手に命名)の記憶が生々しい当時では、正直すんなり受け入れられたとは言えなかった。

ここまでプラスティックマンとしての側面ばかり書いてきたが、DJとしてのリッチー・ホウティンは、そのスジでは90年代初頭より〈もっとも踊れるDJ〉と呼ばれており、専門誌の人気投票でも上位を獲得するほどの存在でもあった。それまでのリリース音源にはその側面が反映されていなかったが、この〈CCショック〉によるリスナー離れを意識してか、自身名義で上述の『Decks, EFX & 909』を発表。これが当時大流行だったトライバル・ミニマル全開のフロア殺戮ミックスであり、この1枚で一気にリッチー・ホウティンの健在ぶりをシーンに知らしめ、さらに〈CCショック〉の落とし前をつけるが如く、現在のクリック・シーンの源流のひとつとも言える大名作ミックス『DE9: Closer To The Edit』(2001年)をリリースする。ここでは〈Concept 1〉やらプラスティックマンの音源をパーツとして使用しつつ、非常にクールかつファンキーなクリック調のテクノに仕立てていて、まるで〈CCショック〉に対してのリッチーからの回答のようであった。この作品でリッチー・ホウティンはテクノ界の中心となり、そして後にプラスティックマン名義でリリースされた『Closer』(2003年)はアブストラクトでクリッキーな骨格テクノという、当時のシーンがプラスティックマンに抱いていたイメージを踏襲するような、同名義の総括的な作風であった。

それもあってか、同作でプラスティックマンとしての活動は一区切りとなる。リッチー・ホウティンの活動のメインはDJとなり、プラスティックマンとしては過去の未発表音源や他アーティストによるリミックスという外伝的シリーズ――その名も〈Nostalgik.〉シリーズを思い出したかのようなペースで単発的にリリースするぐらいとなっていた。まあ、2007年にはそこから“Spastik”のダブファイア・リワークというキラー・チューンも生まれているが……。

そんななか、2010年になって突然プラスティックマンとしてのライヴをスタートしたリッチーは、それに合わせてか、ベスト的コンピ盤『Kompilation』を発表。12月4日には〈WOMB ADVENTURE〉のために来日するということで、一体どうなってんのか確認するため潜入を決行したのだった。

 

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