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第85回 ─ HNC

連載
SPOTLIGHT!
公開
2009/12/02   18:00
ソース
『bounce』 316号(2009/11/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

ガーリー・ポップなブーティー・ベース(?)を引っ提げて、新しい彼女が帰ってきたよ!

  何でもかんでもそう形容する人がいるから迂闊に使うことをためらうんですが、『CULT』はやはり、キュートで、新しい、としか言いようがないんです。ダブ・ステップ風のイントロで耳がピンと立ち、おもちゃのピアノを弾く猫がボンジ・ド・ホレをカヴァーしたような“KITTEN'S BREAKS”のローファイな楽しさに尻尾が反応した……と思ったら、その担い手となるHNCがあのHAZEL NUTS CHOCOLATEだと知って2度ビックリですよ。HAZEL NUTS CHOCOLATEといえば、contemodeのコンピや初期capsuleのアルバムにも参加し、ネオ渋谷系~フューチャー・ポップの文脈でガーリー・アイコン的な支持を集めてきたYUPPAのソロ・ユニットです。2005年に2枚目のアルバム『Cute』を発表した後はCDリリースこそ途絶えていたものの、その間に彼女はDJ活動やトラック制作を本格的にスタート。MOE(MIILA)と組んだLOVE AND HATESでDIYなカセットテープ作品を発表したり、そのデュオでカジヒデキのアルバムに客演するなど活発に動き回っていたのでした。

 そんなわけで今回の『CULT』は、ディプロのマージナルなビート嗜好を彼女ならではの手作り感覚に置き換えたような、拙さやチープさすらも刺激的な楽しさに転化するユニークなポップ・アルバムに仕上がりました。TBAやMIILAなど身近な才能のサポートも受けつつ、ほのぼのした歌声やラップが、ブヨブヨ唸るベースやボルティモア~ファンキ風味のスカスカな疾走感とカラフルに重なっては散らばり、そのすべてがドリーミーな意匠にふんわりと包み込まれた全13トラック。それでいて、足し算的なおもしろさが際立つのではなく、HNC自身の不思議な存在感そのものが最大のチャームになっている点も素晴らしいですね。2010年代から猫が手招きしているような音楽──ついていったほうが楽しいと思います。そうします。

▼YUPPAの参加した近作を紹介。